クレオメ

「お誕生日おめでとうございます、お兄様。私とユフィ姉様からプレゼントがあるんです。受け取っていただけますか?」

 可愛い妹からそんなことを言われて期待しない兄はこの世にいないだろう。ナナリーがくれるものはなんでも嬉しいが、ユフィと相談して一緒に選んでくれたのかと思うと喜びもひとしおだ。
 だから大きな紙袋を差し出されたときも、スザクさんはあとのお楽しみですと不思議なことを言っていたときも、あちらの部屋で開けてみてくださいと隣室に連れて行かれたときも、必要でしたら侍女の皆さんにお手伝いしていただきますからと言われたときも、ルルーシュはナナリーをまったく疑っていなかった。中には一体何が入っているのか、包みを開けながら心は弾んでいた。
 今日は十八回目の誕生日だ。誕生日そのものはさほどテンションが上がるものではなく、自分より周囲のほうが騒いでいる気がする。
 特に異母兄のクロヴィスは毎年誕生日パーティーを企画し、会場の設営から飾り付け、料理、花とすべてをプロデュースしていた。もともとそういうことが好きな人なのですべて任せているが、年々盛大になっていくパーティーをそろそろ止めるべきかどうかがここ数年の悩みだ。派手なパーティーはやめてくれと言った途端、悲しそうな顔をして激しく落ち込むクロヴィスが容易に想像できるので口にはしていないものの、できれば身内だけのささやかな会にしてもらいたい。しかし皇族という身分にある以上、それも叶わぬ望みだろう。
 (でも、今年の誕生日は少し嬉しいな)
 一足先に歳を取ったスザクにようやく追いつける。たった五ヶ月しか変わらないじゃないかと言われるだろうが、彼とまた同い年になれることが嬉しいのだ。
 ナナリーが部屋を訪ねてきたのは、そんな誕生日の朝のことだった。
 今年は珍しく昼にパーティーが開催される予定で、そろそろ着替えて準備を始めようかと思っていた。そこへ響いたノックにどうぞと促せば、ナナリーがにこにこと笑いながら部屋に入ってきて冒頭のプレゼントを差し出されたのである。
 随分と大きな紙袋にはブランドのロゴが描かれている。最近、街の女の子に人気なのだと教えられたときも、彼女が好みのブランドなのだろうとしか思わなかった。

「最近は寒くなってきましたから、マフラーは普段でも使えるものを選んでみたのです。服のほうはさすがに普段使いできませんが、もし機会があればそのときにまた」
「?ああ、わかった」

 あまりよくわからないけれどルルーシュは頷いた。普段使いできない服とはどういうものだろう。皇宮では着られないような服なのか。しかし、ナナリーはあまり奇抜なものは選ばないはずだからきっと謙遜しているのだ、と結論付けて中のものを広げたルルーシュはそこで固まった。
 もしかして店員が入れ違えたのか。そうだ、そうに違いない。だったらすぐに交換してもらわなければ。

「ナナリー、どうも中身が違っているようなのだが……」

 努めて平静を装いながら指摘すると、ナナリーがにっこり笑った。

「いいえ、違ってはいません。そちらが私とユフィ姉様からお兄様へのプレゼントです。一目見て気に入って、絶対お兄様に似合うと思ったんです。ぜひ着てみてください」

 弾んだ声で促されるが、ルルーシュは固まったまま動けなかった。
 自分は妹たちにからかわれているのだろうか。しかし、ほかのイベントならともかく誕生日という年に一度の行事でこんな悪戯をするとは思えない。悪戯でなければ本気ということになるが、これが本気なら色々と問題がある。

「ナナリー……」
「なんですか?」
「根本的な質問をしていいか?」
「はい」
「どうして、俺へのプレゼントが女物なんだ……?」

 ルルーシュが手にしているもの。それはどこからどう見てもワンピースだった。冬仕様の厚手の生地は白で、裾にさり気なく花模様が散りばめられているのはむしろナナリーのほうが似合いそうだ。一緒に入っていたコートも明らかに女性用だし、ご丁寧にタイツから靴まで一式が揃えられている。確かに、これは普段使いできない。

「お兄様に着ていただこうと思って」
「俺は男だ」
「ええ、知っています」
「だったら……」

 また遊ばれているのかもしれない。スザクの誕生日のときもドレスを着せられて女性のふりをしたが、どうして誕生日のたびに女装しなければいけないのだ。
 可愛い妹の望みはなんでも叶えてあげたいと思う。だけどこれはさすがに無理だろうと思ってナナリーのほうを見れば、彼女はやはりにこにこと笑みを浮かべていた。その愛らしい笑顔はまさに天使で、兄に女装をさせようとしているようにはとても見えなかった。
 そのとき、扉が開く音と共にもうひとりの妹の声が聞こえた。ユフィならばナナリーを止めてくれるかもしれないという一縷の望みを抱くが、これが二人で選んだプレゼントであることを思い出し、期待はあっという間に消え去る。

「そろそろ着替えた頃かと思って来てみたのですが、まだだったのですか?」
「もう、ユフィ姉様ったら気が早いですよ。お昼からクロヴィスお兄様プロデュースのパーティーじゃないですか。着替えるのはそのあとです」
「そうだったわ、早くルルーシュのワンピース姿が見たかったからつい。でも、試しに着てみるのはいいんじゃない?」
「確かに。サイズは大丈夫だと思いますが、念のため確認しておいたほうがいいですね」
「ちょっ……、待て! 待て待て、二人とも待て!」

 勝手に進んでいく会話をとうとう遮った。色々と聞き捨てならない話があった気がするけれど、とにかく今は妹たちの魂胆を聞かなければならない。

「なぁに?ルルーシュ」
「順を追って説明してくれ。まず、男の俺に女物の服をプレゼントするのがおかしい。プレゼントをくれるのは嬉しいがもう一度よく考えてくれ。それから、俺がこれを着ることが決定事項になっているのもおかしい。お前たちが選んでくれたものだから受け取るとして、どうしてパーティーのあとに着なければいけないんだ。こんなものを着て出歩く趣味はないぞ」
「ルルーシュが男の子なのはもちろん知っていますよ。でも、先日ナナリーと一緒にお買い物していて、このワンピースを見つけたときにルルーシュに似合うと思ったんです。ほら、ルルーシュの髪って綺麗な黒髪でしょう?だから絶対、白のワンピースに映えます」
「いや、似合うとか似合わないとかそういう問題ではなく、そもそも論としてだな……」

 二人で仲良くショッピングをするのはいいが、そこで見つけたワンピースを自分たちではなく、なぜ兄に着せようと思い付いたのか。生まれたときから一緒にいる妹たちなのに、その心が今はまったく理解できない。

「実はもうひとつ、私たちからプレゼントがあるんです」
「今度はなんだ」

 まだ何かあるのかと思わず額を押さえる。まともなものであってほしいと願っていたら、ユフィが口許に手を当てて内緒話のように声を潜めた。

「スザクと一緒に、街でデートしてきてください」

 その一言にまた固まる。服を受け取ったとき以上の衝撃だった。

「デートと言っても言葉の綾ですからね」
「あ…、当たり前じゃないか。俺とスザクは男同士だぞ、デートなんてするわけがない」

 自分の気持ちがユフィにばれたのかと焦ったけれど、悪戯っぽく補足されてなんとか笑みを作る。

「そこはデートのつもりでもいいと思うのに。とにかく、パーティーが終わったらルルーシュとスザクは街に遊びに行ってください。車や警備のほうはすべて私たちが準備していますから」
「遊びに行けといきなり言われても……」
「もちろん、好きなところに好きなようには行けないですし、夜の数時間だけですけど、せめて誕生日ぐらいはゆっくりしてもらいたいの」
「去年もお兄様はずっとお仕事でパーティーにも遅れていらしたから、今年はもう少しのんびりできればいいと思ったんです。そのことをクロヴィスお兄様に相談したら、じゃあパーティーの時間をずらせばいいとおっしゃってくれて」
「まさか、パーティーが昼からになったのは……」
「夜だけでもルルーシュに自由時間をあげたかったんです。これが私とナナリーからのプレゼントよ」

 妹たちの心遣いが嬉しくてたまらない。確かに、誕生日だからと言って特別休みになるわけではないし、パーティーが終わる頃にはすっかり夜も更けていて、毎年慌しく一日が終わってしまうから誕生日をじっくり噛み締めることはなかった。
 しかし、夜だけでも時間が空けば誕生日の特別感が増しそうだ。その上、今夜はスザクと一緒に過ごせるかもしれないのだ。ユフィもナナリーも自分の欲しいものを知っていたのだろうかと思うほど素晴らしい誕生日プレゼントである。

「喜んでいただけますか?お兄様」
「ああ、とても嬉しいよ。ありがとう、二人とも」
「ですから、素敵な夜のためにぜひともこのワンピースを」

 笑みのままルルーシュは停止した。何がどうして「ですから」に繋がるのだろう。相変わらずまったくわからない。

「素敵な夜とワンピースがどう関係あるんだ……」
「だってそのまま街に出たらばれちゃうでしょう?ルルーシュはただでさえ顔がお人形のように綺麗で目立つのに、帝国宰相の補佐だってわかったらゆっくりするどころではなくなってしまうからそのための女装です。つまり変装だと思ってください」
「変装なら女装である必要はないだろう」
「私とナナリーセレクトのデート場所がカップル御用達の場所なんです。そんなところに男二人で行ったら怪しいでしょう?」
「そういうことなら……、ってそうじゃなくて、どうしてそんな場所をわざわざ選んだんだ!」
「お二人に似合うと思ったからです」

 ねー、と顔を見合わせる二人を唖然として見つめた。デート場所とかカップル御用達とか、選択内容が明らかにおかしい。女装という時点でゆっくりなんかできないだろうと心の中でぼやいた。
 (でも、スザクと二人きり……)
 ふと浮かんだ淡い期待に、何を考えているのだと慌てて打ち消した。デートとか二人きりとかそういう単語には心惹かれるが、そのためには女装が必須条件になっているのだ。ナナリーたちからのプレゼントだとしてもおいそれと受け取るわけにはいかない。

「駄目だ! というか無理だ! いくらお前たちのプレゼントでもこれは、」
「受け取っていただけないのですか?」

 悲しそうな顔でナナリーに見つめられる。同じ色をした瞳は心なし潤んでいるように見えて、ルルーシュは言葉に詰まった。

「お兄様はいつもお忙しいから、せめて今夜だけでも羽を伸ばしていただけたらと思ったのですが……。そうですよね、いくらスザクさんと一緒に過ごせるからと言って、ワンピースまでは着ていただけないですよね。残念ですね、ユフィ姉様」
「そうね、ルルーシュがこんなに嫌がっているなら無理には着せられないわ。せっかくだからスザクと二人きりで過ごしてもらおうと思ったけど、ワンピースは駄目だったみたい」

 なぜそこにスザクの名前が出てくるのだ。一緒に過ごしてもらおうとした結果がなぜ女装なのか。聞きたいことは山ほどあるけれど、すっかりしょげた妹たちを前に何も言葉が出てこない。これでは自分が苛めているみたいだ。

「だ、駄目というわけではないが、スザクを女装した俺と並んで歩かせたら可哀想じゃないか」
「つまり、スザクが問題なければいいの?」
「え……」
「スザクさんがオッケーと言えばよろしいのですか?」
「ま、まあ……」

 小さく頷いた途端、二人の目がきらりと光ったのは気のせいだろうか。
 先ほどまでの萎れた様子はどこへ行ったのか、ナナリーが元気な声でスザクを呼ぶ。部屋の外に待機していた騎士はすぐにやって来た。

「スザクにお願いがあるの。今夜、ルルーシュと一緒に街に出てくれない?」
「街ですか?」
「手配は私たちがすべてやっているから、あなたはルルーシュと一緒に車で目的地に行けばいいだけよ」
「もちろんお供いたします」
「じゃあ、そのときルルーシュが女装をしていても問題ないかしら」
「は……?」

 単刀直入に聞くんじゃない、と心の中でユフィにツッコミを入れる。スザクはぽかんとした顔で突っ立っていた。いきなり女装と言われて「はいそうですか」と答えられる人間なんていないし、スザクも例外ではないだろう。盛大に引かれて今後の自分たちの関係がぎくしゃくするようになったらどうするんだと思わず恨み節が浮かぶ。

「まったく問題ありません」
「そうだろう、仕えている主が女装なんて普通は、……ん?」
「女性の恰好をしなければ外に出られないのですよね?自分がエスコートいたしますので、殿下はどうか安心して外出されてください」
「え、いや、だって女装、」
「決まりですね! では出発は夜の六時。準備は私たちが手伝いますから、ルルーシュはただ着替えるだけでいいですよ」
「良かったですね、お兄様」
「いや、何も良くは……」
「ではまずはパーティー会場に向かいましょう。クロヴィスお兄様が待ちくたびれちゃうわ」

 ぐいぐいと背中を押され、こんがらがった頭のまま部屋を出る。何がどうなってどう解決したのかまったくわからないが、スザクが一緒に来てくれることだけは理解した。そして、そのことがとても嬉しいと思っている自分がいた。女装は色々と問題だが、誕生日の夜に好きな相手と一緒にいられるとわかって胸が弾まないと言ったら嘘になる。
 ちらりと後方のスザクを見れば、彼はにこりと笑ってくれた。ルルーシュも笑みを返して前を向く。
 (パーティーが終わったらスザクと二人きり)
 二人きりというシチュエーションがまったくないわけではないのに、今日は特別に感じるのはなぜだろう。
 早くパーティーが終わって夜になってほしい。そんな気持ちを漏らしたら、この日のために一生懸命準備してきた異母兄は泣くだろうなと思ってルルーシュはまた笑った。
 (どうしてこんなことになったんだっけ)
 経緯がよくわからない。わからないけれど、自分の誕生日のときと同様、彼の妹たちが画策してこんなことになっているのだけは理解できた。
 隣をちらりと窺う。後部座席に並んで座るのは横顔が驚くくらい綺麗な美女だった。身に纏った黒のコートの裾からは白のスカートが覗いていて、この組み合わせを選択した皇女殿下方を褒め称えたい気持ちだ。腰まで伸びた黒髪はウィッグだが、普段の艶やかな黒髪と遜色ないものを用意しているところもさすがである。
 (女装はあのとき一回きりだと思っていたけれど、役得と言うかなんと言うか。こうして見ると本当に綺麗だよなぁ)
 感嘆の溜め息が零れそうになり、スザクは息を吸い込んだ。それにしても、どうして主の誕生日の夜にこうしてデート紛いのことをしているのかはやっぱりわからない。
 今日はルルーシュの十八回目の誕生日だ。アリエスは朝から慌しく、行き交う人々は落ち着かない様子だった。誕生日パーティーはクロヴィスプロデュースによって別会場で行われるが、パーティー後は家族だけでささやかな夕食会を開くということで、夜に向けた準備が数日前から行われていた。
 もちろん、スザクもそわそわとした気持ちを抱えて今日の日を迎えた。敬愛する主が生まれた日なのだから当然だ。でも、家族水入らずの時間を邪魔するつもりはなかった。誕生日ぐらいは母や妹たちと共にゆっくり過ごしてもらいたいと思ったし、プレゼントは渡せるときに渡せればいいと考えていた。
 だから、ルルーシュと一緒に街へ出てくれないかと頼まれたときは何を言われたのかすぐに理解できなかった。しかもルルーシュはまた女装をすると言う。
 どうしてそんなことになったのかまったくわからないけれど、五ヶ月前と同じようにルルーシュは何やら言いくるめられたに違いない。そして、妹たちに甘い彼は断われなかった。
 (でも、そのおかげでこうして殿下と一緒にいられるんだから本当に感謝だな)
 女装のほうがいいというわけではないが、ルルーシュの女装姿は眼福だし護衛を理由に帰るまでずっと一緒にいられるし、ナナリーとユフィには頭が上がらない。
 道中、ルルーシュはずっと無言だった。それは不機嫌と言うより照れによるものだとわかっていたからスザクもあえて声をかけなかった。
 やがて街中の大通りの前で車が止まる。後部座席から下りたスザクはすぐにルルーシュ側へ回った。運転手がドアを開けると、手のひらを上にして右手を差し出した。ルルーシュが不思議そうに見上げた。

「スカートでは降りにくいでしょう?」
「女扱いするな」

 少しだけ頬を膨らませるが、ルルーシュは素直に手を乗せてくれた。すらりとした足が動き、ワンピースと同じ白い靴先が地面についた。

「ナナリーとユフィの言っていたデート、……じゃなくて目的地はどっちだ」

 デートスポットと口にしそうになって濁した主に口許を緩め、スザクは手を握っていないほうの指で暗い夜空を指した。

「あのビルです」
「随分と高いな」
「世界一の高さで、世界一の夜景と言われているそうですよ。あそこの最上階が展望台になっているんです。さあ、行きましょう」

 掴んでいた手をそのまま引こうとして、あっ、と立ち止まる。「カップルらしくしてくださいね」と送り出されたものの、人通りが多い場所を手を繋いで歩くのは問題だろう。直に触れるぬくもりはいつまでも握っていたいけれど、彼の嫌がることはしたくない。
 申し訳ありませんと手を引きかける。

「殿下?」

 離そうとした手を逆にルルーシュに引かれ、スザクは慌てて追いかけた。

「殿下はやめろとユフィに言われただろ」
「えっと……、じゃあ、ルルーシュ様」
「まあいいか。では行くぞ」
「え、あの、」
「手袋がなくて寒いんだ」

 ルルーシュらしい言い訳に小さく笑う。妹思いの彼は、きっと妹たちの提案をそのまま叶えようとしているのだろう。ならばここはカップルとして振る舞うのが騎士として正解だ。

「つまり僕はカイロ代わりですか?」
「そういうことだ」

 横を向くと黒髪がさらりと揺れた。今日の彼は以前と同じように薄く化粧をしていて、その姿は可憐としか言いようがない。通り過ぎる男たちがルルーシュのほうをちらちら見ているのに気付き、牽制のように握る手に力を込めた。
 目的のビルに着くとエレベーターに乗り込んだ。デートスポットというのは本当だったようで、一緒に乗っているのはすべてがカップルだった。自分たちもその一員なのかと思うとなんだか変な気分で、嬉しさに頬が緩みそうになるのをなんとかこらえた。
 軽やかな音と共にエレベーターが止まる。フロアに進むと、ルルーシュが微かに息を呑んだのがわかった。

「凄いでしょう?」
「ああ……。世界一と言うのも頷けるな」

 眼下には美しい夜景が広がっていた。まるで星の上に降り立っているみたいだ。

「綺麗だな」

 笑った横顔は夜景以上に美しかった。あなたのほうが綺麗ですよ、と陳腐な科白が出てきそうになって慌てて口を噤む。代わりに、お誕生日おめでとうございますと伝える。こちらを見たルルーシュが柔らかく微笑んだ。

「最初はどうなることかと思ったが、ナナリーとユフィには感謝しないとな。それからお前にも。ありがとう、スザク」
「いえ、僕は大したことは何も。あちらにシートがありますから移動しませんか?」
「ここでいい」

 ルルーシュの指が絡まり、ぴたりと体がくっ付く。何が起こったのかすぐにはわからず、スザクは立ったまま固まった。

「カップルらしくしていたほうがいいんだろう?気持ち悪いかもしれないが、少しだけ我慢してくれ」

 祈るように囁かれた声がどこか震えているように聞こえたのは錯覚か。
 気持ち悪いなんて思うわけがない。抱き寄せて、抱き締めて、そのぬくもりを感じたいと思っているのは自分のほうだ。

「殿下の、いえ、ルルーシュ様のお傍にいられることが自分の幸せなのですから、そんなご心配は無用です」

 指の先に力を込める。驚いたように顔を上げたルルーシュは、口許を和らげると夜景に視線を戻した。

「来年もまた、祝ってくれるか?」
「もちろんです」
「そうか、楽しみにしている」

 隣にあるぬくもりが温かく、時間が来るまで二人で肩を寄せ合って地上の星々を眺めていた。
 あなたが生まれてきてくれたことに感謝します。
 (14.12.05)