毎朝、ホームの同じ場所に立っている彼がずっと気になっていた。
彼に気付いたのは一年前。
今と同じ、真夏の太陽がじりじりと地面を照りつけるような季節だった。
誰もが汗をかいてうだるような暑さにぐったりとしている中、彼の纏う空気だけはひどく涼やかに見えた。人形ではないのだから彼も皆と一緒に汗をかいていたはずなのに、不思議と人間らしい生々しさは記憶の中にない。単に思い出が美化されているだけなのか。彼の高貴そうな雰囲気がそう思わせるのか。ともかく、彼にはほかの人とは違う何かを感じた。
それが、同級生であるルルーシュ・ランペルージに対するスザクの印象だった。
綺麗で清潔で、凛とした少年。ルルーシュにはどんな美辞麗句も気持ち良いくらいぴたりと当てはまった。そんなルルーシュを毎朝眺めて通学するのがスザクにとっては一日で一番幸せな時間だ。
思えば一目惚れだったのかもしれない。
じっと流れ行く景色を見つめる姿に心惹かれ、彼が毎朝ホームで電車を待っていることを知ってからは可能な限り同じ電車に乗るようになった。
学校が一緒であることは制服ですぐにわかった。ルルーシュが何年生でどのクラスなのかは調べた。彼ほどの人物ならば校内でちょっとすれ違っただけでも気付きそうなものだが、何故か全く覚えがないのが不思議だった。
その理由は、彼が入学式からの四ヶ月、ほとんど学校に来ていなかったからだと後に知った。なんでも体の弱い妹がいてその付き添いで休んでいるのだ、というのはクラスの情報通から教えてもらったことである。でも成績は優秀で、一日も休まず学校に行っている自分より頭がいい。
最近では生徒会副会長を務めていて、彼にはぴったりだと思う。
(二年生になってからは休むことも少なくなったけど、妹さんはもう大丈夫なのかな)
今朝も同じ車両でルルーシュを見つめながら、スザクが考えるのはルルーシュのことばかり。一時間目にある数学のテストのことも三時間目の英語の宿題のことも今だけは忘れていた。
しかし、ルルーシュ・ランペルージという少年についてスザクが知っているのはたった三つ。
同い年であること。
三歳違いの妹がいるということ。
それから、毎朝乗る電車の時間。
どれも情報としては他愛のないものばかりだ。
同級生ではあるが、スザクとルルーシュのクラスは一年生のときも二年生の今も違う。一年間、同じ電車で通学しながら、残念なことに二人の間には全く接点がなかった。ルルーシュと同じクラスの人間から話を聞くにしても、これまた残念なことに、隣のクラスで気軽に声を掛けられるほど仲の良い人間はいなかった。
乗り換え駅のホームでたまたま見かけるという運命的な出会いをしたのに、これほど接点がないのは諦めろということなのかもしれない。そんな弱気なことを考えるようになってしまったスザクだが、いつもの時間に家を出て、いつものホームに立つのがすっかり習慣になってしまった体は、今日もまた自然とルルーシュを追うように電車へと乗り込んでいた。
いっそのこと思い切って話しかければいいではないかと思ったこともある。だけど接点のなさがネックになっていまだに実行できていない。
自分の不甲斐なさに溜め息をついたとき、車内のアナウンスが次の停車駅を告げた。
ルルーシュだけを見ていられる時間も残りわずかである。
(11.09.07)