正門を出たところでルルーシュは足を止めた。
今日は授業をサボったからこの時間帯に学校を出てくることなんてわからないはずなのに、どうしてこんな場所にいるのだろう。まさかずっと待つつもりでここに立っていたのだろうか
。そこまで考えて、口許を自嘲の形に歪めた。
(単なる偶然だ。そんな都合のいいこと、あるわけがない)
気付かなかった振りをして足を進めれば、目の前を通り過ぎたところで腕を掴まれる。
「俺は急いでいるんだが?」
「学校をサボってまで急いで行くところがあるのか?」
「学校より大事な場所もあるんだよ」
「それがアッシュフォードというわけか」
「……何を怒っている?」
「怒ってなんかいないよ」
はあ、とルルーシュは溜め息をついた。まったく話にならない。何を言いたいのかもわからない。
「スザク」
鋭くその名前を呼べばにこりと笑みを向けられてしまい、柳眉を寄せた。
先の騒動から約四週間。久しぶりに見たスザクは見た目こそ変化はないが、雰囲気が少しだけ変わったような気がする。どこが変わったのか、はっきり指摘することはできないけれど、
とにかく何かが変わった。少なくとも、以前の彼ならばこんな風に余裕のある笑みを見せたりはしなかったはずだ。
「何か言いたいのか」
「別に」
「だったらこの腕を離せ」
「どうして」
「どうしてって……」
付き合っていられないとばかりにルルーシュは力を込めて自分の腕を引いた。思いのほかあっさりと外れ、少しだけ拍子抜けする。
「……お前、この四週間どこへ行っていたんだ」
「寂しかった?」
「そんなわけ……」
むっとした顔のまま、ルルーシュは顔を背ける。やけに朗らかに笑っているスザクがなんだかムカつく。
(いや、俺は別に心配していたわけじゃない。ただ、一応俺の親のせいでスザクにも迷惑を掛けたからそれを申し訳なく思っているだけで……って、スザクはそんなこと全然気にしてな
いようだから俺が気にしたってどうしようもないし……ああもう!!)
ルルーシュは口を閉ざしたまま、今度こそスザクの脇を通り過ぎようとした。こんなやつの近くに一分一秒だっていたくない。そう思ったのに、再び腕を取られてカッとなる。
「お前、いい加減に…っ!」
しかし、振り返った先には思いのほか真剣な眼差しがあって思わず息を呑んだ。
「スザ…」
「僕は寂しかったよ」
それが先ほどのやり取りの続きだと気付き、ルルーシュは鼻で笑ってやった。
「お前からどこかへいなくなったくせに、何が寂しかっただ」
「僕にもいろいろ考えなきゃいけないことがあったからさ。でも、それとルルーシュに会えないことは別だよ」
「どうだか。本当にそう思っているのなら、普通は連絡のひとつくらい寄越すだろう」
「携帯も全部置いてきたから連絡できなかったんだよ」
「だったら直接学校まで来れば良かったじゃないか」
「それには僕の中でいろいろと整理が」
「ほら見ろ、やっぱり俺のことなんてどうでもいいんじゃないか!」
ルルーシュは腕をぐいと引っ張った。
「だから違うって!ブリタニアを壊した僕が、敵であった君の前にのこのこと顔を出すわけにはいかないだろう!」
今度はスザクも簡単には離さない。
「そんなもの気の持ちようだ!」
「無茶言うなよ!無理に決まってるじゃないか!」
「無理?無理だと思うのはお前の気持ちが足りないからだろう!」
「僕の気持ちが足りないっていうの?」
「ああ足りない、全然足りないな」
「じゃあルルーシュはどうなんだよ!」
「馬鹿にするな!俺はお前なんかよりずっと…!」
そこまで言い掛けて、ルルーシュはハッと口を噤んだ。
自分は一体何を言っているのだ。売り言葉に買い言葉とはいえ、随分と余計なことを口走っていなかっただろうか。
恐る恐るスザクを伺えば、彼もどことなく呆然としている。果たして自分の発言にショックを受けているのか、それともルルーシュの発言にショックを受けているのか。怖くて確認する
ことはできない。
「その……手を離してくれないか」
このままスザクと対峙していると、さらに意図しない言葉を告げてしまいそうだった。
「嫌だ」
「スザク!」
まったく、どうして彼は自分の思い通りに動いてくれないのだろうとルルーシュは思った。
思えば最初からスザクにはイライラさせられた。いつもイレギュラーを起こし、自分の気持ちをかき乱した。
絶対に倒してやると思っていたのに、いつしかスザクの傍は居心地の良いものへと変わっていた。敵対するルルーシュに対する口や態度は悪かったけれど、彼の根本的な性質なのか、本
当にひどい人間だとは思えなかった。むしろ、ブリタニアという組織に属しているのが不思議なくらいスザクは優しい。
初めは冗談じゃないと思っていたスザクとの学園生活も、次第に楽しいものになっていった。悔しいから認めたことはないけれど、今ならよくわかる。
(楽しかったんだ、俺は……)
ギアスの特命少年警視としてブリタニアとの戦闘に明け暮れる中、学園でのつかの間の友人関係は楽しかった。
自分がブリタニア皇帝の息子であることを話していなかったのは、単に機密情報だから教えなかったというのもあるし、ブリタニアの幹部であるスザクはすでに知っているだろうと思い
込んでいたからというのもある。だけどその本心は、事実を知ったらスザクが離れていってしまうのではないかという恐れだった。
あんな父親でもスザクにとっては偉大なる上司であり、スザクの直接の主であるユーフェミアはルルーシュの妹だ。ブリタニアの最重要機密とも言える事実を知れば、スザクは今まで通りの態度で接してくれなくなるかもしれない。そんな懸念がルルーシュの中で無意識に芽生え、スザクに隠し事をしたままになってしまった。もっとも、その最重要機密もどさくさに紛れて自ら暴露してしまったようなものなので、なんとも間の抜けたことではあるが。
そのブリタニアはスザク自身の手によって崩壊してしまった。そして、ブリタニアの崩壊とともにスザクは姿を消した。
きっと自分たちにこれ以上関わりたくないのだろうとルルーシュは見当をつけた。実にくだらない男の野望のために人生をふいにされかけたのだ。許せるものではないだろう。そして、かつての敵であり、さらには皇帝の息子であった自分も憎いはずだろう。
だからスザクが姿を消していた四週間、会えない寂しさや心配はあったけれど、仕方のないことだとルルーシュは思っていた。自分に二度と会わないことがスザクの幸せだろうとも思っていた。
(なのに、どうしてお前はまた俺の前に現れるんだ)
もしかしたらこれは復讐だろうか。だとしたらそれも致し方ないことかと、ルルーシュは腕を掴まれたまま顔を伏せた。
恨んでくれて構わないと思うのに、実際に恨みをぶつけられたら悲しく、苦しくなる。できれば何も言わずに立ち去ってもらいたい。
それがまた自分勝手な願いであると思い至り、どこまでもあざといなと自嘲した。
「スザク。俺にはお前の考えていることがわかるんだ」
「え?そ、それはどういう意味?」
「心構えはできているということだ。だから、お前の本心を言ってくれ」
「ほ、本当に?」
「ああ」
やけにどもった返事が返ってくるのは不思議だったけれど、自分の中の覚悟を決めるのに必死なルルーシュには気にする余裕はなかった。
「本当にいいの?ルルーシュ」
「お前の思っていることをぶつけてくれて構わない。……覚悟は、しているから」
どんな言葉を投げつけられるかは予想できない。でも、それでスザクの溜飲が下がるのならばいいと思った。
ルルーシュはぎゅっと目を瞑った。
掴まれていた腕が離される。さっきは離せと言ったのに、こうして実際にぬくもりが消えていくと寂しい。本当に自分勝手だな、とルルーシュは心の中で独りごちて嗤った。
「ルルーシュ」
その声にすっと目を開く。碧玉が自分を真っ直ぐ見ていて、それだけのことに心臓がどくりと鳴った。こうしてこの目を間近で見ることももうないのかと思えばひどく悲しいけれど、スザクのことを考えればどんなことも受け入れなければならない。
ルルーシュは意を決して碧玉を見つめ返した。
「君が好きだ。付き合って欲しい」
「ああ、わかった。……は?」
「そして、世界の平和を実現するために僕に協力して欲しい」
「……は?ちょ、ちょっと待てスザク」
「僕と付き合うのは嫌?不愉快?」
「いや、不愉快とかそういう話じゃなくてだな……」
ルルーシュは混乱した。なんだか話が噛み合っていないような気がする。
「じゃあ返事を聞かせて欲しい」
「返事?返事って……なんの?」
「告白だよ!僕の告白!」
「こくはく?」
反応の薄いルルーシュに、ちゃんと意味が通じていないとスザクも気付いたのか、ルルーシュの肩をがしりと掴んでさらに近くで紫の瞳を覗き込んできた。
「言っただろう?僕は君のことが好きなんだ」
「すき……?お前は俺のことを恨んでいるんじゃないのか?」
「恨む?どうして?」
スザクが首を傾げる。
「だって、俺はギアスのメンバーだったし、ブリタニア皇帝の息子だから」
「君がギアスの特命少年警視だったことは今さらだろう?皇帝の息子だったというのは確かに最初はびっくりしたしハードルが高いかなと思ったけど、誠心誠意頭を下げればきっと許してもらえると思う」
やはりおかしな方向に話が進んでいるような気がして、ルルーシュは慌てた。
「そ、そうじゃなくて、俺はお前の人生を狂わせかけた人間の息子なんだぞ?憎くないのか?」
「だからどうして?」
「……お前はブリタニアが憎くないのか?」
「憎いなんて思わないよ」
「嘘をつくな!お前はブリタニアを崩壊させたじゃないか!」
「あ…あれは、皇帝陛下の親馬鹿っぶりに思わず暴走してしまって……、本当はそんなつもりなかったんだけど、勢いでつい」
「つい!?」
なんて理由だと、ルルーシュは思わずすっとんきょうな声を上げる。皇帝が親馬鹿かどうかはよくわからないが、馬鹿であることに違いはない。しかし、それが原因で暴走して勢いで帝国を崩壊させるなんてアホみたいな話があるだろうか。
(いや、実際にこうして現実に起こっているわけだから、現実はアホみたいな話以上にアホだった、ということか……?)
混乱のあまり頭の中がぐらんぐらんと揺れるようだった。
確かなのは、スザクは勢いでブリタニアを崩壊させてしまっただけで、ブリタニアのこともルルーシュのことも恨んではいなかったということだ。あまりに馬鹿すぎて、にわかには信じたくなかったけれど。
「あ!もしかして、僕がブリタニアを崩壊させたから、それでルルーシュ怒ってるの?」
「なんで俺が怒るんだ。邪悪帝国ブリタニアがなくなったことは、俺にとってむしろ喜ぶべきことだろう」
そのせいでアッシュフォードに家族が連日訪れるようになったのは実に腹立たしいが、それとこれとはまた別の話だ。
「じゃあ、お父さんが皇帝を辞める原因を作ったことを怒っている?」
「だからどうして怒らなければならない。ブリタニアが崩壊して皇帝がその座を辞したおかげで、俺とナナリーは一緒に暮らせるようになったし、母さんとも前より会えるようになった。実に喜ばしいことじゃないか」
「そうか。それなら良かった」
スザクがホッとした表情を浮かべる。どうしてそんな顔をするのかルルーシュにはわからなかった。
「僕が確認したいことは全部確認したけど、君が気になっていることは全部解決できた?」
「あ、ああ…、一応」
「それならもう一度言うよ、ルルーシュ。もし嫌でなければ、僕と付き合ってくれないかな?」
何度目になるかも知れない告白を、今度こそルルーシュは理解した。
スザクが自分のことを好きだと言っている。しかも、付き合って欲しいとまで告げてきた。冗談ではなく本気だということは、これまでのやり取りや彼の真剣な瞳を見ればわかる。
(スザクが、俺のことを――)
ルルーシュは小さく頷いた。
「え!?ほ、本当に?」
意外だと言わんばかりの反応に思わず眉をひそめる。
「お前、俺に断って欲しかったのか?」
「違うよ!ただ、玉砕覚悟だったから……」
「玉砕覚悟の割には随分とストレートに告白してきたな」
「だって、ルルーシュが僕の考えていることはわかるなんて言うから、隠していても仕方ないと思ったんだよ」
「ああそれは……俺がいろいろと勘違いして」
「うん、わかってる。随分と思い切りがいいなって思った」
苦笑いされ、ルルーシュは顔を赤くさせた。スザクは恨みつらみをぶつけてくるだろうと覚悟していたからあんな科白を吐けたのだが、思い返してみればかなり恥ずかしい発言だ。
「実を言うと、告白しようかどうかずっと悩んでいたんだ。ギアスとブリタニアが敵対していたときは敵同士という葛藤があったし、両方がなくなったあとは、これ幸いとばかりに告白するようで軽薄だと思われるかなって心配だったし」
「そんなこと思わない。俺もいろんなしがらみがなくなってからお前のことを好きだと自覚したんだ」
「それっていつごろ?」
「……自覚したのは、お前がいなくなってからだ。でも、本当はずっと前から好きだったんだと思う。認めたくなかっただけで」
「そっか」
嬉しそうに笑うスザクに、ルルーシュはますます頬を赤く染めた。
「そういうお前はどうなんだ」
先ほどから自分ばかりが恥ずかしいことを言っている。それが割に合わないような気がして、わざとぶっきらぼうに尋ねた。
「え?僕?意識するようになったのは、君とナナリーと三人でお茶をしたときかな。でも、好きになったのはきっと学園に転入してからだと思う。その前はずっと敵対していたから君のことは敵としか認識していなかったけど、学校でギアスもブリタニアも関係ない素の表情を見るようになって、君個人をちゃんとひとりの人間として意識するようになれたんだ」
スザクは特に恥ずかしがる様子もなくすらすらと答えた。尋ねたルルーシュのほうが照れるくらいの笑顔で、訊かなければ良かったと思わず後悔してしまう。
しかし、どうせ叶わない想いだろうと諦めていたから、こうしてスザクの本心を聞けたことは素直に嬉しかった。
数日前、アッシュフォードでセシルに「恋煩い?」と言われたときは思い切り否定したけれど、彼女の指摘は正しかったのだ。正確に言えば、片思いに悩んでいたわけではなく、どうやって諦めようかと思い悩んでいただけなのだが、恋煩いであったことは確かである。
「……馬鹿みたいだな」
「へ?馬鹿?僕が?」
自分のことを言われたのかと、スザクがショックを受けた表情をしてみせる。その顔を見てルルーシュは笑った。
「違う、俺のことだ」
「君がどうして馬鹿なの?」
「まあ、いろいろとだ」
ルルーシュは軽く受け流す。
この四週間、スザクに対する好きという気持ちばかりを募らせていた。同時に、叶わない想いを抱え続けることに苦しさも感じていた。だけど、すべては自分の勘違いだったのだ。そんなこと恥ずかしすぎてスザクには絶対に言えない。
「それよりお前、これからどうするつもりだ。もうユフィとの主従関係はなくなったんだろう?」
まさかブリタニアがなくなってもユフィに仕える、なんて言い出さないだろうかとルルーシュは不安になった。
実の妹に嫉妬なんてみっともないけれど、たとえユフィであろうとスザクを取られたくないと思ってしまう。ひどく浅ましい。
「それなんだけど……」
言い淀んだスザクに、ルルーシュの中で緊張が高まった。
「ルルーシュ」
ずい、とスザクが一歩距離を縮める。さらに両手を取って、胸の前で握りしめられた。
(!?ち、近い近い…!!)
腕を掴まれたことは何度もある。しかし、至近距離にスザクの顔があり、さらには指を絡めるように手を握られたことは初めてだ。顔がカーッと熱くなり、先ほどとは違う緊張に心臓がばくばくと鳴った。
そんなルルーシュを気にした様子もなく、スザクはひどく真剣に見つめてきた。
「僕は君と一緒に優しい世界を作りたいんだ。僕を手伝ってくれないか?」
「や、優しい、世界?」
「そうだ。誰もが幸せに暮らせる世界だ」
「……お前、本当にそんなものを目指していたんだな」
世界平和のための世界制服と聞いたときは、なんて馬鹿なことを言う奴だろうと思った。しかしスザクは本気だった。純粋に、世界の平和を望んでいたのだ。
「だったらなぜブリタニアなんかにいたんだ。あいつらの目的は世界制服だっただろう?」
「それは……ブリタニアが世界で一番影響力を持っていたし、ユフィの考え方に賛同したからというのもある。確かに、皇帝は少しやり過ぎだと思うこともあったけど、ブリタニアを中から変えていけばいずれ良い方向に向かえると信じていた。……いま思えば、随分と甘い考えだったけど」
スザクが眉尻を下げ、自嘲のように小さく笑う。軽蔑していいよと言われたが、ルルーシュはふるふると首を振った。
「いや、俺も打倒ブリタニアを掲げて特命少年警視をやりながら、本当はただ父親を懲らしめたいだけだったんだ。世界のことなんて真剣に考えてはいなかった」
「まだまだ青いってことかな、僕たち」
「そうだな」
ふふっと可笑しそうに笑ったが、ふいに二人とも笑みを収めた。互いにじっと見つめ合う。
「好きだよ、ルルーシュ」
「ああ。俺も、だ」
まだ少し照れはあるけれど、今度は素直に口にすることができた。
スザクが口許を綻ばせる。幸せだと、表情全てで語っているような顔をしていた。
「大将軍だった僕と特命少年警視だった君、僕たち二人が手を組めばきっと最強だと思うんだ。だから、僕と一緒に優しい世界を目指してくれないか」
「……ナナリーが同じことを言っていたよ」
「え?」
「優しい世界になりますようにと、いつも祈っていた」
「……実を言うと、僕のはユフィの受け売りなんだ。彼女も優しい世界を夢見ていたから」
相談したわけではないだろうに、二人ともが同じことを言っている。さすがは血の繋がった妹だと、感心するような誇らしく思うような気持ちになった。
「そうか。だったら、二人のためにも実現しなきゃいけないな」
ルルーシュは朗らかに笑った。
「お前の提案に乗るよ、スザク」
「ルルーシュ……いいの?」
自分から手伝ってくれと言いながら、いざ同意されると自分に無理やり付き合わせてしまうようで気が引けるのだろう、スザクが少し戸惑った顔をする。やっぱり優しい奴だな、とルルーシュは思った。
「俺たちが組めば最強なんだろう?だったら、叶わないことなんてない。違うか?」
「でも、簡単には実現しないよ」
「そんなことは承知の上だ。もともとあのブリタニアを倒そうとしていた俺だぞ。今さら怯むものがあるか」
言い切るとスザクは口を噤んで少しだけ目を伏せた。相変わらず両手は胸の前で握られたままだったけれど、ずっとこの状態なのでルルーシュもさすがに慣れた。
「スザク」
しずかに名前を呼べばようやく顔が上がった。その顔に笑いかけると、スザクが頬を緩める。
「――うん、ごめん。僕から言い出したのに、僕が迷ったりしたらいけないよね」
握った両手を持ち上げて、指の背にそっとキスを落とされた。
「君とならなんでもできるって思っているのは本当だよ。だから……、そのためにも、僕と一緒に生きてほしい」
その科白にルルーシュはわずかに眉をひそめる。
「さっきと言葉が変わっていないか?」
「変わってないよ。優しい世界を実現するためには、ずっと一緒にいなければいけないだろう?」
「それは……そうかもしれないが」
少し趣旨がずれている気がする。
でも嬉しそうな顔をしているスザクを目の前に、まあいいかと思った。自分はこんなにもスザクに甘い人間だっただろうかと内心呆れるが、これも惚れた弱みだ。
「ルルーシュ。僕と一緒に優しい世界を作っていこう?」
「――ああ」
敵対していた自分たちが、まさかこんな風に手を取り合う日が来るなんて予想すらしていなかった。だけど、これからは一緒に平和な世界を目指して働くのだ。
二人一緒にいれば不可能なことなんてない。
ルルーシュはそっと微笑んだ。
後日、愛息と元部下のお付き合いを報告された前ブリタニア皇帝が大いに男泣きをし、二人を祝福したほかの子どもたちに慰められたという話が風の噂でまことしやかに囁かれていた。
何はともあれ、世界は確実に平和である。
END
(09.11.01)