嘘でもいいから

 ※無理やりな表現があるので、苦手な方はご注意ください。
 僕は友達と寝ている。
 同じベッドで横になっているという意味ではない。体の関係、つまり、セックスをしているという意味だ。
 しかも相手は同性、同じ男である。
 男が趣味なわけではない。付き合うのも抱くのも女の子がいいに決まっている。
 でも彼だけは、ルルーシュだけは別だ。

「レポートのほうは終わったのか? スザク」

 隣のルルーシュに密かに見惚れていた僕は、話を振られて笑みを浮かべた。

「終わったよ」
「マジで? スザクもう終わったのかよ」

 僕の向かいでリヴァルが天を仰いだ。その横でジノが豪快に笑う。

「なんだ、今回のビリはリヴァルか。でも珍しいな、スザクがもう終わっているなんて」
「ルルーシュに資料集めを手伝ってもらったからね」
「ずるいってそれ! ルルーシュ、俺の資料集めも手伝ってくれよ!」
「なんの見返りもなく俺が手伝うと思うか?」
「え……、まさか金……?」
「友達に金銭を要求するわけないだろ」
「ちょっとした肉体労働だよ。一週間、夕飯の買い物を手伝ったんだ。お米とか水とか重いものばかり運ばされたよ」
「そのあと夕飯をご馳走してやったじゃないか」
「うん、だから僕的にはむしろご褒美だったかな」

 へへっと笑えば、ルルーシュは澄ました顔で紅茶に口をつけた。そのあとに「大学のカフェテリアの紅茶はやはりいまいちだな」と文句を言うことは忘れない。
 街中の紅茶専門店ではないし、ティーバッグの紅茶しか出てこないとわかっているのに、それでも毎回紅茶を頼むのはルルーシュなりのこだわりなのか、余程ほかに飲み物がないのか、どちらなのだろう。

「お前ら、本当に仲がいいよなぁ」
「そうかな、普通だよ。ね? ルルーシュ」
「ああ」
「でも、恋人でもなかなかないぜ。いっそ付き合っちゃえばいいのに、なんてな」

 紅茶のカップを握るルルーシュの指先に微かに力がこもった。リヴァルとジノは恐らく気付いていない。僕だけが気付いたほんのわずかな反応だ。

「こんな体力馬鹿、こちらから願い下げだな」

 冗談に冗談で返したルルーシュは完璧な笑顔だった。誰もが知っている『ルルーシュ君』の顔だ。

「とか言って、その体力馬鹿に荷物運びをさせているのはどこの誰だよ」
「荷物運びぐらいしか役に立たないからだろ」
「酷いよルルーシュ」
「そんなことより次の講義に行かなくていいのか?」

 時計を見て、ルルーシュを除いた全員が「やばっ」と声を上げた。

「スザクとジノはどこだっけ?」
「僕は本館」
「私も本館だな」
「なんだよ、俺だけ別館じゃん。ごめん、先行くわ」

 荷物を抱えてリヴァルが慌ただしく走って行った。残った僕たちも椅子から立ち上がる。本日の講義がすべて終了しているルルーシュだけはまだ優雅に紅茶を飲んでいた。

「先輩、また明日」
「ああ」
「じゃあね、ルルーシュ」

 手を振った僕は、ああそうだと思い出したようにルルーシュの耳元に口を寄せた。

「あとで君の部屋に行くから」

 紫の瞳がちらりとこちらを見る。なんの感情も窺えない、凪いだ視線だった。
 初めの頃はその冷たさに動揺していたけれど、今ではすっかり慣れっこだ。むしろ、照れたり嫌がったりといったわかりやすい反応がなくて助かる。

「――好きにしろ」

 正面を向いたルルーシュは小声で返した。
 じゃあ、ともう一度言って今度こそ背を向けた。ルルーシュがどんな顔をしていたのかはわからないままだった。
 ルルーシュ・ランペルージと出会ったのは小学生のときである。
 ブリタニアから転校してきた彼とは家が近く、最初は性格の違いから衝突もあったが、気付けば仲良くなっていた。以来、中学から大学までずっと同じ学校に進学している。周囲は僕たちを親友だと思っているし、僕たちもお互いを親友だと認識していた。
 僕の中でその認識が変わったのは高校一年生の頃。ルルーシュのことが好きだと唐突に気付いてしまったのが原因だ。
 友達を、しかも男を好きになるなんて有り得ない。ルルーシュは確かに女の子みたいな顔をしているけどだからって恋愛対象になるはずがない。そう思い、必死に女の子と付き合うようになった。これはきっと気の迷いか何かで、ほかの子と遊べばルルーシュのことなんかすぐに忘れると己に言い聞かせていた。
 でも、結果は芳しくなかった。女の子といればいるほどルルーシュを思い出し、目の前の相手とルルーシュとを無意識に比べていた。女の子を抱いている最中にルルーシュを思い浮かべてしまったときは重症だと頭を抱えた。
 ルルーシュは至ってノーマルである。まだ女性経験がないせいか、恋愛に対してどこか夢を見ているような部分はあるものの、恋愛対象は間違いなく女の子だ。整い過ぎている容貌のせいで男子生徒から告白されたことは一度や二度ではないが、そのたびに手酷く断わっているし、同性からの好意に対しては嫌悪感を示すほどであった。
 だから、もし僕が告白したところで受け入れてもらえる可能性はゼロ、それどころか大事な親友を失うことは目に見えていた。
 そんなリスクを犯してまで気持ちを伝える勇気はなく、この感情は死ぬまで隠して生きていこうと高校三年生の冬に決意した。
 それなのに大学一年生の春、新入生歓迎会のあと、僕はルルーシュを押し倒していた。
 場所は自宅の玄関を上がってすぐの廊下で、色気も何もなかった。
 ルルーシュは酔った僕を介抱してくれていたのだが、足元がおぼつかない友達を玄関まで送り届けたところで体力が限界だったらしい。僕が段差に躓いてよろめくと、二人して廊下に倒れ込んだ。
 僕はルルーシュに抱き付いたまま、どこかふわふわとした心地良さに包まれていた。ルルーシュもすぐに起き上がる気力はないようで、真っ暗な玄関には酒の匂いと乱れた二人分の呼気が漂っていた。
 どのくらいそうしていたか、やがて夜の闇に目が慣れてきた。ふと見れば目の前に白い首筋があり、急に喉の渇きを覚えた。
 女の子なんかじゃこの渇きは癒えない。ルルーシュでなければ渇きも飢えも満たされない。
 どうせ僕のものにならないのなら、何をしたっていいじゃないか。
 酔った頭が都合良く結論を導き出し、気付けばルルーシュの首に歯を立てていた。
 ルルーシュは酔っ払いがふざけているとしか思っていなかっただろう。くすぐったいと笑いながらも抵抗することはなかった。
 でも、シャツのボタンをひとつずつ外し、ズボンに手をかけたところでようやく友達の様子がおかしいと気付いたようだ。
 僕が本気で下肢を暴こうとしていることに怯えた様子を見せ、やめろと何度も叫んだ。身を捻り、ここから逃げ出そうとしていた。
 しかし、いくら酔っていても力は僕のほうが上だ。中途半端に脱がせたシャツで腕を拘束すると、両足を抱え、誰も触れたことのない場所に舌を伸ばした。
 やり方は知っているし、頭の中では何度も何度も犯してきた体だ。大事に、慎重に、極力傷付けないように、酔った頭で自分に言い聞かせながら秘所をじっくり解していった。
 やめろと訴えていたルルーシュの口からはすすり泣く声が漏れていたけれど、それは僕の興奮を高める材料にしかならなかった。あのプライドの高いルルーシュが、ずっと友達として隣にいたルルーシュが、僕に組み敷かれているのだと思ったら腰の奥が一気に重くなった。
 これ以上はもう限界だと、僕は焦れたようにベルトを緩めた。ズボンの中から必要な部分だけを取り出す様はみっともなく、己の欲に支配された獣と少しも変わらなかった。
 かろうじて残った理性が「ごめん」と伝えていたものの、ルルーシュからすればそんな謝罪はなんの意味もなかっただろう。
 ずっと待ち望んでいた場所に熱い切っ先を埋めたとき、月明かりが微かに届いた。ルルーシュは悲鳴を上げなかった。ただ歯を食い縛り、瞳からぼろぼろと涙を零して僕を睨み付けていた。
 ごめん、と唇の動きだけでもう一度謝った僕は、あとは夢中になって腰を動かした。冷たい廊下の上で細い体を揺さぶり、何度も隘路を犯す。ぐちゅぐちゅといやらしい音が響いていた。
 それは相手のことなんか考えていない一方的な暴力だった。親友への想いを募らせた結果の暴走は、酒が入っていたからという理由で許されるものではない。なのに、ルルーシュを抱いているのだと思ったらまた興奮した。
 本当に最低だった。ルルーシュの中に汚い欲を吐き出したあと、ようやく冷静になって事の重大さを理解したのだから本当に救いようがない。
 ぐったりとして意識を失くした彼をひとまずベッドまで運び、まずは体を清めるべきか、それより謝罪が先かとひとりで狼狽していると、ぱちりとルルーシュの瞳が開いた。
 先ほど僕を睨んでいた目はすっかり凪いでいて、何も言えないでいる僕をしばらく見つめたあと、「お前、彼女がいるんじゃなかったのか」と尋ねた。

「いる、けど」
「その彼女と俺を間違えたのか」
「間違えないよ」
「じゃあ、相手に満足してないのか」

 僕は答えあぐねた。ルルーシュを抱いた理由はひとつだけ。ルルーシュのことが好きで、ずっと抱きたいと思っていたからだ。
 ルルーシュは『スザクは溜まっていたから酔って羽目を外した』という結論にしたいのだろうか。それで説明できるのなら楽で簡単だ。実は好きでしたなんて打ち明ける必要もない。

「……不満、ってわけではないけど」
「まさか彼女にも同じようなことをしてないだろうな」
「まさか」

 答えたあとに、これではルルーシュなら無理やりしてもいいと捉えられたかもしれないと焦った。ルルーシュの目は相変わらず凪いだままで、突然の災いに何を思っているのかまったく窺えない。

「それは良かった」

 何が良かったのかわからないでいると、ルルーシュはおもむろに身を起こした。体が痛むのか、微かに眉を寄せて肌蹴られたシャツを忌々しそうに握り締めていた。

「こんなこと女性には絶対するなよ。犯罪者になりたくないだろ」
「当たり前だよ」
「だから、むしゃくしゃしているときは俺を使え」
「え……?」

 何を言われたのかすぐには理解できず、ぼんやりとルルーシュの顔を見上げた。
 ルルーシュは悠然と微笑んでいた。天使のような優しさと、悪事を唆す悪魔みたいな顔が入り混じっていたかもしれない。

「だってお前、俺で勃つんだろう?」

 あの夜以来、僕は友達と寝ている。
 親友の関係に体の関係が加わることを世間ではなんと言うのだろう。

***

 恋愛に関しては淡白だと思われたルルーシュがセックスにこんなに積極的だなんて知らなかった。
 美人で頭が良くて学校中の憧れの彼が、男友達の上に乗って腰を振っていると知ったら皆どんな反応をするだろう。
 (誰にも見せてやるつもりはないけど)
 僕の上半身に手を付き、苦しそうに喘ぎながら腰を揺らすルルーシュを下から満足げに眺める。
 今日は疲れたからルルーシュが動いてよとお願いすれば、興味のなさそうな様子のまま自ら服を脱いでくれた。せっかくだから最初から最後まで全部自分でやってみてと無茶なおねだりをしても、嫌がる素振りは見せなかった。
 いつも使っているローションでルルーシュが自分の奥を弄り始めたときは、このまま押し倒して犯してしまいたい衝動を必死にこらえた。僕のものを下着から取り出し、頼んでもいないのに口淫までしてくれて、まさかあのルルーシュがここまでするなんてと感動すら抱いた。
 そうして、ルルーシュ自ら腰を落として一生懸命動いている姿は可愛くてたまらない。太腿に手を這わせれば、それだけで感じたような声を漏らす。
 ルルーシュはどこもかしこも弱く、良い反応をしてくれた。今まで誰もこの体を知らなかったことが嘘のようだ。

「そこ、触るな」
「なんで? ああ、こっちのほうが良かった」
「ひぁッ…!」

 切なげに震えて先走りを零している欲望に触れる。すると、屹立を銜え込んでいる部分が締まり、自らの刺激にルルーシュは息を止めていた。

「ここは僕が触ってあげるから、頑張って動いてよ、ほら」

 先端を弄りながら意地悪く促せば、首が横に振られた。汗に濡れた黒髪が頬に張り付く。

「スザク……、もう、ムリ……」
「もう? 駄目だなぁ、もっと体力つけないと」
「お前が、体力、ありすぎるんだ…っ」
「仕方ないな」

 よいしょっと身を起こせば奥で当たっている場所が変わり、ルルーシュの悲鳴が上がった。縋り付かれて熱っぽい吐息が耳にかかる。
 可愛い、と背中を撫でれば感じ入ったような喘ぎが聞こえた。

「手伝ってあげるからルルーシュももう少し頑張って」

 細い腰を持ち上げる。

「ア……、アぁ…ッ」

 中から怒張したものが少しずつ抜けていき、ルルーシュが切なそうな声を漏らした。ルルーシュ可愛い、と今度は声に出して囁いた。
 ルルーシュの腰を落として突き上げると、首に回された手に力がこもった。嬌声を上げながら、合間に何度も「スザク」と呼ばれるのがたまらない。
 愛されているような錯覚を抱けるこの瞬間は好きだ。射精の瞬間より感じているかもしれない。
 (好きだ、ルルーシュのことが、好きなんだ)
 応えるように背中に爪を立てられ、その痛みさえ心地良い。
 ルルーシュと関係を持って一年半が経つ。彼はこの行為をどう思っているのだろう。
 ルルーシュの優しさから、過ちを犯した友達を咎めなかったところまでは理解できる。でも、なぜ次を許してくれたのかはいくら考えてもわからない。
 しかも、許してくれたどころか、性欲を解消したくなったら自分を使えと提案したのだ。僕としては願ってもないことだけど、ルルーシュが何を考えているのかますますわからなくなってしまった。
 最初は冗談だろうと思っていたのに、あの日の翌日、意を決して真意を確かめたところ、「お前がやりたければ好きに誘え」と言われた。
 僕がルルーシュを抱きたいと誘えばどちらかの部屋でセックスをする。でも、ルルーシュのほうから僕を求めてくることはない。僕が主導権を握った関係は、気付けばずるずると一年半も続いていた。
 これがもしほかの友達や知り合いの女の子だったら、馬鹿なことを言うなとか自分の体をもっと大事にしろとか、それっぽい言葉で諭していたに違いない。でも、相手がルルーシュなら話は別だ。
 (ルルーシュの提案を利用して好きに抱いている僕は最低だな)
 どうせ気持ちを伝えられないのなら、体だけでも手に入れたいと思ったのは本心だ。
 あの日と同じ白い首筋に唇を這わせた。軽く歯を立てて、皮膚の感触を確かめる。

「ぁ……、スザ、ク」

 ルルーシュはまだ僕の名前を呼んでくれる。それは彼に許されている証のようで、目の奥が熱くなった。
 (君がこの関係を終わらせようと言い出したらちゃんと諦めるから、だから、どうかそれまでは――)
 愛してると伝える代わりに名前を呼んで、僕は甘美な行為に耽った。

***

 合コンしないかと言い出したのはジノだ。
 僕たちよりもひとつ年下の彼は、なぜか高校時代から同級生とはつるまず、一年上の教室に遊びに来ていた。だって先輩たちといるほうが有意義で楽しいからと殊勝なことを言うのだが、僕とリヴァルのことは呼び捨てにしているので、むしろこちらを下に見ているのではないかと疑っている。

「隣の女子大、レベルが高くて有名なの知ってるだろ?」
「俺が頼んでも断わられたのに、ジノが誘ったら一発でオッケーなんだから本当に世の中間違ってるよな」

 からからと笑っているジノの横でリヴァルは不貞腐れている。

「ジノはともかく、リヴァルも参加するの? ミレイ先輩一筋じゃなかったっけ」

 彼には高校時代から片想いしている相手がいる。現在は大学が違うけれど、たまに当時の生徒会メンバーで同窓会をやるので顔を合わせる機会は多い。
 いつまで経っても友達以上の関係になれないとつい先日も愚痴を聞かされたばかりだったので、ついに諦めたのかと思って尋ねると、リヴァルがジト目を向けてきた。

「それとこれとは別なんだよ! 俺だってたまには女の子にちやほやされたいし!」
「いやぁ、リヴァルは女の子に尽くすタイプでしょ。で、良い人なんだけど恋人にはなれないってお断りされるタイプでもあるな」
「ジノに言われると腹も立たないな……。とにかく! せっかくオッケーもらったんだからさ、スザクもルルーシュもたまには参加しないか?」

 うーんと考えるふりをして隣のルルーシュをちらりと窺う。手の中のカップを揺らしている横顔は何を考えているのかわからない。
 大学生になってから、正確に言うとあの夜から、ルルーシュが何を考え何を思っているのか読み取れなくなってしまった。昔は以心伝心で何でもわかった気がするのに、いつからこんなに遠くなってしまったのだろう。
 (やっぱり僕のせいだよな)
 ルルーシュは僕たちの関係をどうしたいのだろう。
 続けたいのか。やめたいのか。あんな関係はもちろん、友達としての関係ももうやめたいと思っているだろうか。爛れた一夜を過ごしたあと、大学でこうして仲の良い友達を演じることに飽き飽きしていないだろうか。

「スザクって今は彼女いないんだろ? だったら合コンに出ても誰からも文句は言われないよな」
「うん」

 ルルーシュと関係を持つまでは彼女を絶やしたことがなかったけれど、あの夜以来、女の子と付き合うのがすっかり面倒になってしまった。
 しかし、ルルーシュとのセックスに満足しているから彼女はいらないなんて言えるはずもなく、そういう事情を知らない女の子たちからは今もたびたび告白されている。ほかに好きな人がいるからごめんねと断わることすら煩わしく、嘘でもいいから彼女がいることにしようかと思うくらいだ。
 (そっか……、彼女を作っちゃえばいいのか)
 ほかの相手ができればルルーシュに向かっている感情が少しは和らぐかもしれない。そしたら頻繁にルルーシュを抱くこともなくなるし、ルルーシュだって解放されるではないか。
 どうして今まで気付かなかったのだろう。もっと早くそうしていれば良かったと思うくらい単純で手っ取り早い方法だ。

「合コン、たまには出てみてもいいかな」
「じゃあスザクは決まりだな。ルルーシュはどうする?」

 邪気のないリヴァルの問いに、ルルーシュは目線だけを向けた。

「――少し、考えさせてくれ」
「了解。あー、でも二人が来るとますます俺の影が薄くなっちゃうなぁ」
「誘っておいてその言いぐさはないだろ」

 そこでようやくルルーシュが顔を上げて笑った。いつもの表情にホッとする。

「よし、これでほぼ決まりだな。もしかしたら向こうの人数が増えるかもしれないから、そのときはまた誰か誘わないと」
「俺はまだ行くとは言っていないぞ、ジノ」
「わかってますって。その代わり、先輩が欠席のときは先輩の名前をちょっと使わせてもらいますから」
「使用料はちゃんと取るからな」
「うわ、厳しい」

 しばらく笑い合い、次の講義の時間が来ると全員が席を立った。先を行くリヴァルとジノの背中を見ながら、僕はルルーシュに小声で話しかけた。

「今日、ルルーシュの部屋に行っていい?」
「ああ」

 小さな返事が返ってきた。相変わらず感情の窺えない顔だ。
 この承諾がいつ拒絶に変わるのか。今は考えないようにして僕も前を向いた。

「お前、本当に合コンに出るのか?」

 ぽつりと問われたのは、ベッドの上でルルーシュのパジャマのボタンを上から三つ目まで外したときのことだった。

「気が乗ればね」
「気が乗れば出るのか」
「ルルーシュだって乗り気だったじゃん」
「俺は少し考えると言っただけだ」
「つまり検討の余地はあるってことだよね。そう言えば、ルルーシュって今まで合コンに出たことあるの?」
「興味がない」
「だったら良い社会勉強だと思って初体験してみたら? それに、上手くいけば彼女ができるかもしれないし」

 四つ目のボタンに手を掛けようとしたとき、手首を掴んで止められた。遮られるのは初めてで、どうしたのかと顔を上げる。

「――お前は、俺に彼女ができてもいいんだな」
「それは……」

 嫌に決まっている。
 ルルーシュを誰かのものにしたくない。女だろうと男だろうと、誰かがルルーシュを独占するなんて許せない。
 どの口がそれを言うのだと自分自身を罵り、小さく嗤った。

「良いも悪いも、僕が決めることじゃないし。彼女が欲しければ作ればいいよ。って言うか、いい加減、彼女ぐらい作ったら?」
「え……」
「でも、ルルーシュと並ぶとなると相手も大変だよね。美男美女のカップルもいいけど、ルルーシュなら綺麗系より可愛い系の子のほうがお似合いかな。ナナリーみたいな子だとぴったりなんじゃない? もし彼女ができたらダブルデートでもしよっか。遊園地とか水族館とかベタなデートスポットに行ってさ、それで、」

 ぱんっ、と乾いた音が響いた。
 たいした痛みは感じない。でも、ルルーシュに平手で殴られたのだと理解したら急激に心臓が冷えた。
 恐る恐る目を向けると、今にも泣き出しそうな顔をしたルルーシュが僕のことを睨み付けていた。あの夜、暗い廊下でその体を無理やり押さえ付けたときのように。

「彼女? ダブルデート? なんだそれは、今さら俺にそんなことを、そんな普通のことを押し付けるのか? ああ、そうだよな、男のくせに男に抱かれて悦ぶなんて普通じゃない。お前にとってはただの遊びで、性欲を解消できればそれでいいんだよな。後腐れはないし、女みたいに妊娠することもないし、遊び相手としては最高じゃないか」
「ルルーシュ……?」
「初めからそうだった、最初に許したのもこんなことを続けるように仕向けたのも俺だ、全部ちゃんとわかっていた、わかっていたけど、なんで今さらそんなこと…っ」

 手首を握り締める手が落ちる。項垂れたルルーシュの肩に触れれば勢いよく振り払われた。

「やめよう、スザク」

 泣き濡れたような声が聞こえた。

「もうここには来るな。俺もお前の部屋には行かない。二度と行かない」
「なんでいきなり、」
「いきなりなんかじゃない。いつこんな馬鹿げたことを終わらせようかずっと考えていたんだ。お前だってもう飽きただろう? 合コンでもなんでもして好きな女性と付き合えばいいじゃないか」
「やだ……、嫌だよ、ルルーシュと別れるなんて」
「俺たちは付き合ってない」

 鋭く言われ、体が硬直する。
 付き合っていないし、想いも伝えていない。ルルーシュがこんなことはもうやめようと言い出せばそれですべて終わり。そのつもりだった。
 でも、いざ関係の終了を告げられたら頭の中が真っ白になった。嫌だとみっともなく喚いている自分が僕の中にいる。

「それとも、そんなに俺の体は悦かったか?」

 自らを卑下する言葉を吐き、嘲笑うようにルルーシュの口の端が上げられた。

「だったら、二度と俺を抱きたくないと思えることを教えてやるよ」

 膝を付いたルルーシュは、身を乗り出すと顔を寄せた。ふわりと香ったのは石鹸の匂いで、こんなときだというのに頭の芯がくらくらするような感覚を覚えた。

「嘘でいいんだ。嘘でも、冗談でもいいから、俺のことを好きだって言ってくれないか」
「好、き……?」

 単語の意味がすぐに把握できなくて、綺麗に整った顔を呆然と見つめる。不安げに揺れていた紫の瞳が何かを諦めたように閉ざされ、小さく息を吐き出した。

「今、気持ち悪いって思っただろう?」
「違う、今のはそうじゃなくて、」
「――俺は、本気でお前のことが好きだった。俺を友達だって言ってくれるお前の隣でずっと友達のふりをしていた。でも、こんな気持ち伝えるつもりはなかった。お前に嫌われたくなかったし、お前を失うのも嫌だった。でもあの日、お前に無理やり抱かれて、もしかしたらって期待が生まれた。彼女がいるのは知っていたけど、俺にも可能性があるかもしれないなんて期待してしまった。飽きられるのが嫌で、お前が望むことならなんでもして、でも結局、新しい彼女ができるまでの繋ぎでしかなくて、そんなことわかっていたのに、それでも俺はスザクが、友達のお前が、ずっと…っ」

 唇を噛んで俯いたルルーシュは、一度だけシーツをきつく握り締めると身を翻した。僕は逃げ出した体を咄嗟に捕まえ、ベッドに引き戻した。誤解させたまま逃がしたら一生後悔すると思ったのだ。

「お前、この期に及んでまだ…!」

 また無理やり体を奪われると思ったのか、涙に濡れた眦がつり上がった。違うよ! と反射的に叫ぶ。

「ごめん、ルルーシュ、僕、君を傷付けてばかりで、ごめん……」
「何を謝っているのか知らないが、悪いのは俺で」
「悪いのは僕だ!」

 何からどう謝ればいいのかわからなくて、ただ、ひとりで傷付いて苦しんできたルルーシュのことを考えたらたまらなくなって、細い体を掻き抱いた。

「ごめんね、ルルーシュ……」
「だから、」
「僕が馬鹿だったんだ。もっと早く、いや、最初に、あんなことをする前に、君にちゃんと伝えておけば良かったんだ。自分が傷付くのが嫌で、一番やっちゃいけない最低なことをした。今さら謝っても許されることじゃないけど、ごめん」

 最低だ。何度、自分に向けたかわからない言葉を吐き出す。
 こんな形でルルーシュに好きだと言わせてしまった。取り返しのつかないことをした。本当に最低な男だ。

「僕も、ルルーシュのことがずっと好きなんだ」

 腕の中の体が強張った。嘘だと思われるだろうか。下手な慰めだと捉えられるだろうか。

「好きで好きでたまらなくて、でもどうせ僕のものにならないのなら嫌われたっていい、だから君の体だけでもと思って最低なことをしてきた。ごめん、こんなこといきなり言われても信じられないよね」

 ごめんばかりを口にしている。でも、何度詫びても足りない。ルルーシュはきっと許してくれないし、許してもらおうなんて思っていない。
 ただ、ルルーシュに悪いところはひとつもないし、ルルーシュの想いも決して気持ち悪いものではない。それだけでも伝わってほしかった。

「……ふざけるな、そんなくだらない冗談、」
「冗談じゃないよ」
「じゃあ、今度は違う遊びでも思い付いたのか? 俺が本気で信じたら馬鹿にして笑うつもりか? それとも、適当に好きだと言っておけば俺が絆されてまた抱かせてやるとでも思ったか?」

 今にも泣きそうな顔をして、口元には露悪的な笑みを乗せるルルーシュが哀しかった。
 そう思わせているのも、こんなことを言わせているのも、全部僕のせいなのだ。今さらながらに僕自身の弱さとズルさに反吐が出る。

「信じてほしいなんて都合のいいことは言わないよ。でも、ルルーシュが好きな気持ちは本当だ。高校のときからずっと、ルルーシュだけが好きだった」

 腕の中の体がぴくりと反応する。真意を確かめるようにルルーシュが真っ直ぐ僕を見ていた。僕も目を逸らさずにルルーシュの瞳を見返した。

「同性の友達を好きになるなんてどうかしていると思ったよ。君のことを忘れようと彼女も作ってみたけど、誰と付き合ってもルルーシュのことは忘れられなかった。だから、僕は卑怯なことをした。酒に酔っていたことは言い訳にもならない。僕は君の意志を無視して無理やり抱いたし、君の優しさに付け込んでそのあともずるずると関係を続けてきた。最低だって罵られても殴られても仕方のないことをしたってわかってる。僕のことは許さなくていいよ。憎んでくれていい。友達をやめてもいい。目障りだって言うなら大学も辞めるし、ルルーシュの前には二度と現れない。ただ、僕が君を本気で愛してることだけは信じてくれないかな」

 抱え続けてきた想いと、ずっと後悔していた気持ちをひと息に告げる。ルルーシュは不快そうに眉を寄せただけだった。
 (ああ、やっぱりこれで終わりか)
 当たり前だと落胆していると、離せと冷たく言われた。抱き締めていた腕を解くと、ルルーシュがのろのろと起き上がった。
 このあと浴びせられるのは罵声に違いないと思い、どんな罰でも受け入れようと覚悟を決める。

「――お前、俺の話を聞いていたのか」

 不愉快そうな声と共にルルーシュが僕を睨み付けた。

「俺はお前を好きだと言っただろう。なのに、なんでお前を目障りだと思わなきゃいけないんだ」
「え……、でも、」
「別に、お前のことが嫌いなわけじゃない」
「ルルーシュ……」
「でも、すぐには信じられない。仕方ないだろ、今までずっと遊びだと思ってきた関係が本当は違ったなんて、そんなの都合が良すぎて、怖い」

 ぽつりと漏らした言葉はルルーシュの本音だろう。散々いたぶられたあとに本気で好きなのだと告白されたら、普通は騙されているとしか思えない。
 それでも、嫌いではないと言ってくれたルルーシュの優しさが嬉しくて胸がいっぱいになる。こんな僕を見捨てず、まだ好きだと思ってくれるルルーシュが愛しくてたまらない。
 驚かせないようにそっと抱き締め、ルルーシュの匂いを思い切り吸い込んだ。

「これまでのこと全部話すよ。いつからルルーシュが好きなのかってことも、あの夜、何を考えていたのかってことも全部」
「ああ……」
「ルルーシュの誤解を解くためならなんでもするから」
「そういう安請け合いはするな。――だが、本当になんでもしてくれるのなら、ひとつ頼みを聞いてくれないか」
「いいよ、何?」
「大声を出したら疲れた。話は明日改めてするから今日はもう寝たい。だからお前も一緒に寝ろ」

 尊大な口調で言いながら、遠慮がちに腕の辺りを掴まれた。頼みと言うにはあまりにもささやかな内容だ。
 そう言えば、行為のあとは罪悪感からルルーシュと同じベッドで寝るのは避けていたから、一緒に眠るということはなかったのだと思い至る。
 恐らく、半分は僕を試しているのだろう。ここでいつものように体を求めてきたら今度こそ僕を拒絶するために。
 あとの半分は、ルルーシュの心からの望みだと思いたい。
 一度外したパジャマのボタンを留め直す。先にベッドに潜り込んだルルーシュはすぐに目を閉じた。
 おやすみと囁いた声に、おやすみと返ってきた。それだけのことがとても嬉しかった。

***

 ベッドの上に起き上がったルルーシュは、ぼんやりと毛布の端を眺めた。夢を見たような気がするけれど、内容はもう覚えていない。
 起きたら何かしなければと思っていたのにそれすら忘れてしまった。

「スザク……」

 無意識に口から漏れた名前にようやく目が覚め、ベッドの隣を探る。シーツはすでに冷たく、誰かがいた痕跡はもう残っていなかった。
 さほど広くない部屋の中を見渡し、ベッドを下りると洗面所に向かった。トイレにも風呂場にも人影はない。まさかベランダだろうかと部屋に戻って勢いよくカーテンを開けたけれど、朝の陽射しが眩しいだけだった。
 嫌な予感にどくどくと音を立てる心臓を宥めながら玄関に行く。そして、そこに自分の靴しかないのを確かめた。

「そうだよな……、そんな都合のいいこと、あるわけが……」

 壁に背中を預けてずるずる座り込む。
 昨日のあれはやはり嘘だったのだ。いや、そもそも夢だったのかもしれない。いつか本当にスザクが自分のものになればいいのにと願い過ぎて、とうとう幻覚まで見てしまったのだ。
 (スザクが俺のことを好きなんて、有り得るはずがないのに)
 ああ言っておけばとりあえず責められることはないとでも思ったのだろうか。そうして大学で顔を合わせたら、部屋に行っていいかとまた聞かれるのだ。
 同じことを繰り返し、虚しさを抱えて毎日を過ごす。そんな日々をいつまで続けるつもりなのか。
 そのとき、玄関のドアノブを回す音がした。びくりとしてドアを見つめていると、次に鍵を差し込む音がし、ガチャリと金属音が聞こえて再びドアノブが回された。
 まさか泥棒が堂々と入ってきたのかと思ったけれど、逃げる気力もなく、ゆっくり開いていくドアを眺めていた。

「ただいま……って、えっ、ルルーシュ? こんなところで何やってるの?」

 そろそろと顔を覗かせたのはスザクだった。廊下に座り込んでいるルルーシュを見つけてぎょっとした顔をしている。ルルーシュはその驚いた顔を凝視することしかできなかった。

「スザク……、なんで……」
「ごめん、勝手に鍵借りちゃって。冷蔵庫を見たら牛乳がなかったからコンビニまで買いに行ってきたんだ。ついでにパンも。朝ご飯、食べるでしょ? あ、ルルーシュはコンビニのパンは食べないかな」
「パン……」
「うん、好きなのあったらどれでも食べていいよ」

 がさごそと音を立てながらレジ袋の中身を見せるスザクに、視界がじわりと滲んだ。

「えっ、ちょっ、どうしたの? 大丈夫? 嫌いなものがあった?」

 あたふたとしている彼は見当違いなことしか聞いてこなくて、馬鹿、と涙声で言い返す。安心したら一気に気が抜けて、こんなことで泣いてしまう自分が女々しくてみっともないと思うのに涙は止まらなかった。
 靴を脱いだスザクが慌てた様子でルルーシュの傍に膝をついた。

「僕のせい?」
「違う!」
「でも、僕の顔を見ていきなり泣き出したでしょ?」
「だから違う…っ」

 帰ってしまったのかと思っていたら、ただ買い物に行っていただけだったから安心して涙腺が緩んだ、なんてことは口が裂けても言えない。
 よしよしとあやすように背中を撫でられる。これでは赤ん坊と一緒だ。

「ねえ、本当にどうしたの?」
「うるさい、お前が紛らわしいことをするからだ」

 思わず悪態を吐けば、それで何かを察したのか、スザクが「ああ、そういうこと」と納得するように呟いた。

「ルルーシュを残して勝手に買い物に行ってごめんね」
「俺は何も言ってない」
「うん、そうだね。ここだと寒いからとりあえず中に戻ろうか」

 よいしょと両手を引っ張られる。やはり子ども扱いでムッとするが、いちいち突っかかるのはさらに子どもっぽい気がしたので黙っておく。歩くたびにレジ袋がかさかさと音を立てていた。

「僕、ここに住もうかな」
「はあ?」

 いきなり何を言い出すのだと呆れた声を出せば、だって、と笑みのままスザクが振り返った。

「そしたらルルーシュと毎日一緒だし、君を不安にさせることもないし。ここが駄目ならルルーシュが僕の部屋に来てくれるのでもいいよ」
「なんだそれは」
「同棲の申し込み」

 嫌そうに眉を寄せると、その顔は傷付くからやめてと懇願された。

「だってこれまでのことを全部話して、ルルーシュの誤解を解くには一日や二日じゃ足りないでしょ? それなら一緒に暮らしたほうが早いし、僕の気持ちが本物だって信じてもらえるかなと思って」
「お前、そうやっていつも女を口説いているのか」
「口説いてないよ。と言うか、部屋に呼んだことがあるのはルルーシュだけだし」
「嘘をつくな」
「本当だって。相手の家に行ったことはあっても、相手を来させたことはないよ。自分のテリトリーに踏み込まれるのって嫌だもん」
「俺ならいいとでも言うつもりか」
「うん、ルルーシュならいいよ」

 さらりと肯定され、喜んでいいのか照れたらいいのか、それとも怒ればいいのかわからない。これだから女たらしは、と心の中でまた悪態を吐く。

「男二人で暮らすのは何かとハードルが高いから駄目だ」
「そうかな、ルームシェアってことにすれば大丈夫だと思うけど」
「とにかく駄目だ。だいたい、同棲なんて気が早すぎる。そういうことはもっとじっくり話し合った上でだな、」
「じゃあ、もっとじっくり話し合ったあとならいい?」
「……そのとき考える」

 やったぁ! と喜ぶ姿は無邪気そのものだ。昏い瞳で人のことを散々好き勝手してきた男と同一人物とは思えない。

「でも、もし本気で嫌ならちゃんと断わってね」

 ルルーシュの頬に残った涙のあとを拭いながら、スザクが小さく言った。

「もう二度とルルーシュを傷付けたくないから」
「――ああ」

 たくさん傷付いてきた。後悔もたくさんしてきた。スザクのことを嫌いになれれば楽なのにと何度も思ったけれど、どうしても嫌いになることはできなかった。
 (愛してるの一言を聞けた時点で、俺はスザクのことを許していたのだろう)
 自分でも馬鹿だと思う。こんな酷い男のどこがいいのだと誰もが呆れるに違いない。
 それでも好きなのだ。どうしようもないくらい好きになってしまったのだ。
 嘘でもいいからと願ったことが本当に実現した。スザクへの気持ちはいつか諦めようと決めていたのに、思いがけず長年の想いが実った。このチャンスを逃すつもりはさらさらない。
 頬をなぞる手をそっと握り締めると、指の先を絡められた。

「スザク」
「ん?」
「俺のためになんでもしてくれるんだよな?」
「うん」
「だったら、今ここでキスしてくれないか」

 翠の瞳が瞠られる。驚いたような顔に、してやったりと笑えばスザクも口元を緩めた。
 瞼を下ろすと柔らかい唇が触れた。
 それが、二人のファーストキスだった。
 (16.01.06)