たとえばの話

 やあ、久しぶりだね。元気にしてた、って聞くまでもないか。
 世界旅行を満喫して楽しくやってる? それは良かった。君がそうやって元気に過ごしているのならルルーシュもきっと喜ぶよ。
 僕? 僕は相変わらずかな。うん、ありがとう。七年もやっているからね。一応、様にはなってきたんじゃないかな。ルルーシュが見たらまだまだだって言われそうだけど。厳しいから、ルルーシュ。
 さすがに顔を晒して歩くのは無理でも、帽子とサングラスで変装すればなんとかなるよ。今日だってこうして外に出てるだろ? 皆、もう僕の顔なんて忘れて るよ。完全に忘れてはいないだろうけど、七年も経てば少しは成長して顔付きも変わるし、そもそも僕は死んだことになっているから、もし気付いても他人の空 似って思ってくれるみたい。
 ナナリーも元気だよ。知ってる? ナナリーは人気者だからテレビでも特集されて、今週のナナリー代表ってコーナーまで出来てるんだよ。ルルーシュが観たらどう思うかな。しっかりやってるって喜ぶかな。それとも、もっと綺麗に映せって怒るかな。
 ルルーシュって本当にシスコンだから、いつもナナリーナナリーで、僕がいてもナナリーしか言わなくて、悔しいくらいにナナリーばっかりで。もしナナリーに反抗期が来て、お兄様なんか大嫌いって言われたらどうしたのかな。きっとショックで寝込んじゃうよ。
 ああ、それと似たようなことをあのときやったのか。兄妹喧嘩はするべきだけど、何もあんな喧嘩じゃなくて良かったのに。ルルーシュは自分が憎まれ役のつ
 もりで、ナナリーからもずっと憎まれて嫌われて、そのうち忘れられるつもりだったから、自分のことでナナリーが泣くことはないなんて豪語してたけど、とん
 だ見当違いだよ。ルルーシュのせいでナナリーがどれだけ泣くか、なんでもっと想像できなかったんだろう。ホントずるいよね。
 こういうのも過小評価って言うのかな。プライドが高くて普段は自信満々なくせに、妙なところで自分の評価が低いんだよ。怒っているわけじゃないよ、単なる愚痴だよ。こんなこと誰にも話せないから。ルルーシュの名前だって七年ぶりに声にした。
 別に名前を出したらいけないわけじゃないし、ほかの皆は最近はぽろっと口にすることもあって、それはそれでいいことだと思うんだ。だって、全部が全部、ルルーシュの計画通りになるわけじゃないから。皆がルルーシュのことを忘れてしまうなんて無理だから。
 僕はどうなのかな。ルルーシュの顔とか、ルルーシュの声とか、記憶の中のものはどんどん薄れていて、僕が覚えているルルーシュは僕の願望なのかもしれない、僕が勝手に作り上げた理想なのかもしれないって少し怖くなってる。
 あの瞬間の感覚とか、あのときのルルーシュの言葉とか、そういうものは忘れられないけど、それでも当時ほどの鮮明さは残っていない。少しずつ消えていっ
 て、僕がこうだと思っているルルーシュの記憶だけが残るんだ。そうやって理想ばかりを重ねていったから現実のルルーシュを受け入れられずに否定してしまっ
 たのに、学習能力がないよね。いや、ルルーシュはもうここにはいないから、それはそれで別に問題ないのかな。でも、やっぱりルルーシュはルルーシュのまま
 で覚えていたいよ。本物のルルーシュを忘れるのは嫌だな。
 うん、僕は大丈夫。別に無理はしていない。大変なこともあるけど、あの頃に比べたらずっと楽だ。本当だよ。世界はこんなにも穏やかで、平和で、本当に良かったって思っている。
 そうだな、ひとつだけ我儘を言うなら、この世界をルルーシュに見せてあげたかったかな。一緒に街を歩いて、世界中を旅して、疲れたらこうしてカフェでお
 茶をして、美味しいものを食べて、テレビに出ているナナリーを観て、予定もなくのんびり過ごして、そういうありふれた日常ってやつをルルーシュにあげた
 かったな。
 何? お前もそういう気遣いができるようになったのかって酷くない? 僕だってちゃんとルルーシュのことを――、いや、もうやめよう。久しぶりにルルーシュの名前を出せて浮かれているのかな。仕方ないよ、こんな風に話せて嬉しいんだから。
 ルルーシュのこと? そうだよ、今でも好きだよ。ちょっと、君から聞いておいて嫌そうな顔しないでよ。死んだらそういう感情はなくなるのかなって少しは 期待していたんだけど、残念ながら全然。むしろ今のほうが普通に好きだなって思えているかな。あの頃は苦しいばかりだったのに、今は当たり前にルルーシュ を好きだって思える。いいじゃないか、たまには惚気させてよ。
 あのさ……、ひとつだけ聞いていいかな。君が素直に教えてくれるとは思っていないけど、もしかしてルルーシュは……、ううん、やっぱりいいや。あのとき
 ルルーシュの亡骸は棺に入れて燃やされた。火を点けるときに棺の中身があったのか、空だったのかなんて今さら確認できないし、そういう可能性があったとし
 て、僕の前に現れてくれないってことはまだその時期じゃないってことだし、本当に死んでいるのなら、それを改めて確認したところで現実を突き付けられるだ
 けだし、もしかしたらって可能性はまだ持っていたいんだ。馬鹿だよね、ごめん、今のは聞かなかったことにして。
 だからさ、ルルーシュが生きていても死んでいても伝えてくれないかな。僕はずっと待ってるって。この世界でも来世でも地獄でもどこでもいいから、君にまた会えるのを待ってる。そんなこと言わないでさ、嘘でもいいから頼まれてよ。
 ああ、もう時間だ。僕ばかり喋ってごめんね。もし困ったことがあれば僕かナナリーを頼ってくれていいから。困ってなくても遊びに来てほしい。ルルーシュみたいなもてなしはできないけど、二人で歓迎するよ。
 じゃあ、もしまた次の機会があればそのときに。ありがとう、C.C.。
 (15.09.28)