「チョコレートが欲しい」
スザクが子供のような駄々をこねてべそをかいていたのは、もう七年も前のことだ。
子供のようではなく子供そのものだったわけだが、バレンタインデーにチョコレートをもらうことの意味と価値を見いだせていなかった俺には、彼の切実なまでの訴えがあまり響かなかった。
「そこで売っているじゃないか」
たまたま通りかかったスーパーを指せば、そうじゃない! と怒られた。
「俺が欲しいのはバレンタインのチョコレート!」
「何が違うんだ?」
「バレンタインにもらえるかどうかが違う」
まったく理解できない理屈だった。
恐らくチョコレートそのものではなくチョコレートをもらう行為に意味があるんだろうな、と当時十歳の俺は考えをめぐらせた。
日本のバレンタインデーは女子が男子に告白する日、という文化が根付いていることを知ったのは日本に引っ越してきたばかりの年で、なんという不毛な文化なのだと思った。
なぜ告白するのは女子限定なのか。なぜバレンタインデーだけが告白の日なのか。なぜ渡すのはチョコレートなのか。突っ込みたいことは山ほどあったけれど、日本ではそういうものなのだと納得することにした。他国の文化にいちいち文句をつけていてはキリがない。
それに、ブリタニアからの転校生として遠巻きにされている俺には無関係な行事だ。小学生の頃から恋愛にうつつを抜かしている連中が低俗に感じられたし、チョコレートひとつで女子人気の有無を視覚化され、自分の価値を決め付けられるのも腹立たしい。
大体、チョコレートに限らず、何かを流行らせようとするのは企業の戦略であって、そんなものに気を取られて振り回されるのは馬鹿らしい。
当時十歳の俺の持論に、スザクは思い切り眉を寄せていた。何を言っているのかわからないと、その顔にははっきりと書かれてあった。
「企業戦略、要は大人に騙されているってことだ」
「大人が悪くてもなんでもいいんだよ。とにかく俺はチョコレートが欲しいんだ」
「だからスーパーに売ってる」
「だから違うって! ルルーシュの馬鹿!」
先ほどまでべそをかいていた人間が今度は喚いている。馬鹿とは失礼だなと文句を言えば、唇を尖らせたスザクはそっぽを向いた。本当に子供っぽいと、自分もまだ子供だった俺は思った。
どうしてそこまでバレンタインのチョコレートにこだわるのか。呆れつつも、俺にはなんとなくわかる気がした。
当時のスザクは所謂ガキ大将で、喧嘩の強さからクラスのみんなに怖がられていた。同級生の親達は自分の子供に「枢木君とはちゃんと仲良くしなさい」と言い聞かせているようだが、男子はスザクを避ける傾向にあった。女子も乱暴な男子を遠ざけ、スザクは嫌いな男子の上位に名を連ねた。つまり、好感度ランキングの代名詞のようなバレンタインデーにチョコレートをもらえるわけがなかったのだ。
スザクの名誉のために弁解すれば、彼は決して理不尽に暴力を振るう人間ではない。そもそも、小学生男子はしょっちゅう喧嘩をするような存在だ。ふざけて遊んでいたはずが、いつの間にか取っ組み合いの喧嘩に発展していたことは一度や二度ではない。
にもかかわらず、スザクだけが乱暴者のレッテルを貼られたのは、彼がとにかく喧嘩に強かったからである。
スザクのほうから喧嘩を売ることはなく、むしろ相手から喧嘩を売られることがほとんどで、そのすべてに圧勝し、力の加減を間違って相手を病院送りにしたことも何度かあった。
そのため、喧嘩が強くて怒らせたら怖くて何をするかわからないという勝手な憶測が蔓延し、スザクといえば乱暴者という理不尽で一方的な評価をされる羽目になったのだ。根は優しい人間だといくら説明したところで、一度刷り込まれたイメージは簡単に変わるものではない。
結果、俺と同じくスザクも遠巻きにされてしまい、バレンタインデーに誰からもチョコレートがもらえないというわけなのだ。
「なんで俺だけチョコレートもらえないんだろう……」
とぼとぼと歩く姿はいつもの元気なスザクからは想像できないものだった。チョコレートをもらえないことがよほどショックらしい。
クラス全員にチョコを配り歩く女子ですらスザクを避けていたので、ショックが大きいのも当然かと納得する。
とうとうスザクの足が止まった。べそをかいていた顔は今にも泣き喚きそうだ。
嘆息した俺は、仕方がないとスザクに近付いた。
「わかった。僕があげるよ」
「……え?」
「バレンタインのチョコレート、欲しいんだろう?」
「ルルーシュがくれるのか……? 本当に?」
「君がチョコレートチョコレートとうるさいからな。聞いているだけで胸焼けしそうだ。女子からのチョコレートじゃないと嫌だなんて贅沢を言うなよ」
惚けたように俺を見ていたスザクは、うんっ、と大きく頷いた。何度も頷くので、首がもげるのではかと心配したほどだ。
「今から帰って作るから少し待っていてくれ」
「作るの? ルルーシュが?」
「ほかに誰が作るんだよ」
「チョコレートって作れるんだな」
「作ると言っても市販のチョコレートを湯煎して……まあいいや、とにかくあとで君の家に持っていく」
俺の言葉にスザクが目を輝かせた。
「うん!」
先ほどまで泣いていた顔があっという間に笑顔になった。
単純だなと思いつつ、俺も一緒になって笑った。俺はスザクの笑った顔が好きだったのだ。
こうして、バレンタインデーになるとスザクにチョコレートを渡すという習慣が始まった。十歳からの習慣は小学校を卒業し、中学校も終えて高校生となった現在もまだ継続している。
一度限りのつもりだったのに、スザクはバレンタインになると今でも俺にチョコレートをねだる。スポーツ万能で家柄も良くて顔もいいと評判で大人気の『スザク君』になった今でもだ。
俺の気持ちも知らないで。
(チョコレートが欲しいと泣いていたのが嘘みたいだな)
階段の踊り場からは中庭が見えた。教師から預かった資料を特別教室に運んでいる途中の俺は、偶然見かけた光景に思わず足を止めた。
今日は二月十四日。スザクがチョコレートと騒いでいたバレンタインデーだ。
最近では友達同士で贈り合ったり、自分のために豪華なチョコレートを購入するのも流行っているようで、女子から男子に告白するという行事はだいぶ廃れたと思っていたが、決して絶滅したわけではない。その証拠に、中庭ではチョコレートの受け渡しが現在進行形で行われていた。
女子は隣のクラスで可愛いと言われている生徒だ。去年卒業した先輩と付き合っているらしいとクラスの男子が噂していたのに、もう別れたのだろうか。
そして、男子は俺のよく知っている学生だった。
(乱暴者のスザク君が今では学年一の人気者か。女子の人気なんて当てにならないな)
ありがとうと言うスザクの声が聞こえてきそうだ。その顔は満更でもなく、女子は憧れのスザクと話せてとても喜んでいる。このあとはどうせ「スザク君のことが好きです」と続くのだろう。
(馬鹿らしい)
俺は無表情で視線を外し、階段に向かった。
高校生にもなると相手の顔や性格はもちろん、どういう家の人間かも重要になってくるのだろう。その点、現職の総理大臣の息子で、枢木家の嫡男という肩書きは最高のスペックだ。小学校のときの同級生で、当時はスザクに見向きもしなかった女子が彼に熱を上げていると知ったときは、あまりの馬鹿馬鹿しさに呆れた。
スザクの表面しか見ていないくせに、性別が女というだけでスザクに馴れ馴れしく話しかけ、べたべたとくっ付き、好きだと告白できる彼女達が憎らしい。
(醜い嫉妬だな)
教卓の上に資料を置く。休み時間の特別教室はしんとしていて、まるで別世界だ。
最前列の椅子に腰かけた俺は、窓枠に肘を乗せて外を眺めた。ここからは校庭が近く、昼休みに外で元気に活動している生徒達の歓声が時折耳に届いた。
空はどんより曇っている。午後からは雨が降るらしい。ちっとも晴れない空は今日の俺の心みたいだと、ほんの少し感傷的な気分になった。
(こんな気持ち、早く消えてしまえばいいのに)
幼馴染で、同性の親友で、好きになることを許されない相手を好きになってしまったのはいつなのだろう。自分の感情なのに、これだけはいつまで経っても不可解なままである。
ただ、俺はスザクが好きなのだと自覚した日は覚えていた。
あれは中学二年生のバレンタインデーだった。いつものように二人で下校していると、女子生徒がスザクを呼び止めた。頬を赤くさせ、とても緊張した様子だった。
先に帰ろうかと聞けば、ちょっと待っててと言い残してスザクは彼女と校舎の隅に行ってしまった。なんとなく気になった俺は、悪いと思いつつも彼らのあとをつけて様子を窺った。要するに覗き見だ。
そこで見たのは、「スザク君が好きです。付き合ってください」と女子が告白し、スザクにチョコレートを差し出す現場だった。
スザクは困ったように頭を掻き、ごめんね、と即答した。好きな人がいるんだとも言っていた。
ショックを受けていた女子生徒は、せめてこれだけ受け取ってくださいとチョコレートを押し付け、すみませんでしたと頭を下げて逃げるように駆けて行った。
あのとき俺は、スザクが女子からチョコレートをもらえるようになったことと、スザクに好きな人がいることと、俺はスザクを好きなのだということを知ったのだ。
いろんな事実が衝撃的で、俺は思わず逃げ出していた。スザクに告白した女子生徒のように。
自宅に着いても頭の中は混乱していて、何から考えればいいのかちっともわからなかった。同性に恋愛感情を抱いている自分にも、その相手がスザクであることにもショックを受けていた。
スザクは大事な友達だ。そんな友達を好きになるのは酷い裏切りのように感じられ、自分が極悪人か何かになった気分だった。
翌日、なんで先に帰ったのと拗ねていたスザクには悪いとだけ謝った。いつも通りの友人の顔ができていたのかどうかは正直自信がなかった。
(なんで好きになってしまったんだろう)
あの日以来、俺はどうにもならない感情を抱え続けている。
好きだと言うこともできず、好きな気持ちを消すこともできず、同じ場所をぐるぐる回っているような感覚だ。
今のところスザクが誰かと付き合った形跡はないので、彼はまだ誰かに片想いしているのだろう。
誰が好きなのか、聞いたことは一度もない。怖くて聞けなかった。知らない女子ならまだしも、万が一知り合いの名前を出されたら立ち直れそうになかった。
弱い自分に溜め息をついたとき、突然教室のドアが開いて心臓が止まりそうになった。
「良かった、ここにいた」
現れたのはスザクで、今度は心臓が大きく跳ねる。悪いことをしたわけではないのに疚しい気分だった。
「な、なぜお前がここにいる」
「なんでって、ルルーシュが階段を上っているところが見えたから」
「階段? いつ?」
「ついさっき」
さっきとは、つまり俺が告白現場を見ていたときのことだろうか。しかし、スザクは女子と話していて上など見ていなかったはずだ。まさか視界の端で確認していたと言うつもりか。
どういう動体視力をしているんだと呆れていたら、ドアを閉めたスザクがつかつかと寄ってきた。
「ねえ、今年は? まだもらってないんだけど」
とうとう聞かれたか、と何度目かの溜め息を飲み込んだ。
毎年俺からチョコレートをもらっているスザクは、今年も当然あるものと信じているのだろう。
渡せば喜ぶことはわかっていた。大喜びする彼の姿が嘘でも演技でもないことは知っている。
だけど、虚しくなってきた。単なる友達へのチョコレートだと自分に言い聞かせるのにもいい加減疲れた。だから、不毛はことはもうやめると決めたのだ。
「今年はない」
迷うことなくきっぱり伝えれば、スザクの表情が強ばった。この世の終わりのような顔をされる。
「なんで……?」
「なんでって、誰からもチョコレートをもらえなくて泣いていた子供じゃないだろう? 今や学校中の人気者、スザク君にチョコレートを贈りたい女子は山ほどいるし、実際にチョコレートだって山のようにもらっているじゃないか。俺の手作りチョコレートなんかもう必要ない。惰性で渡していたが、今年からはやめにしないか」
たくさんの女子に囲まれ、たくさんの女子に想いを寄せられ、たくさんの女子から告白されるスザク。そんな彼に俺のチョコレートなんてなんの価値もないだろう。
このままずるずると渡し続けていたら、俺はいつまで経ってもこの不毛な恋を殺すことができない。
今日は区切りだ。スザクのことが好きな俺を、今日限りで終わらせよう。
教室に戻るために立ち上がった俺は、何気なくスザクを見て呆気にとられた。
「……どうしたんだ?」
スザクは泣いていた。子供みたいにぽろぽろと涙を零している。その顔に七年前のバレンタインデーが思い出された。
「嫌なことでもあったのか。まさか告白を断ったからって酷いことを言ってきた女子がいたのか」
俺がなだめていると、ルルーシュじゃないか、と恨めしげな声で言われた。
「酷いことを言ったのはルルーシュだ」
「は? 俺?」
「だって、僕にチョコレートをくれるって言ったのに、ルルーシュのチョコレートは僕だけのものだと信じていたのに、もしかしてほかに渡したい人ができた? 誰? 男? 女? 僕の知ってる人? 君のファンクラブの誰か? 女子が君に近付かないようにせっかく裏で手を回していたのに、全部無駄だったんだ」
「はあ?」
不穏な言葉を聞いた気がするけれど、スザクは構わず続けていた。
「その人にも手作りチョコレートを贈るんだろう? 僕のときみたいに、いいや、僕のよりももっと美味しいのを作って渡すんだ。だって好きな人だもんね」
「お前、さっきから何を言って……」
「一番近くにいたのは僕じゃないか。なのに、なんでほかの奴に君を盗られなきゃいけないんだよ。僕にはもう飽きた? 嫌いになった?」
「なぜお前を嫌いにならなければいけない」
「チョコレート、もうくれないんだろう?」
「それはお前がたくさんもらっていて、もう必要ないだろうと」
「もらったことないよ。渡そうとする女の子はいるけど、いらないって全部断っている」
「えっ……そうだったのか?」
渡されるところは何度も見てきた。でも、言われてみればスザクが受け取ったところは一度も見ていない。
そもそも、スザクがチョコレートを受け取る場面を目にしたくないから、いつも無意識に顔を背けていたのだと思い至る。
「ルルーシュ以外のチョコレートなんてなんの価値も意味もないよ。僕が好きなのはルルーシュなんだから」
さらりと声にされた言葉に俺は思考を止め、すぐに「ああ、友達としてだな」と自分に言い聞かせるように納得した。こんなときに好きだと言われたら勘違いしてしまいそうだ。
「違うよ。恋人としての好きに決まってるじゃないか」
しかし、続く言葉に今度こそ固まってしまった。スザクの発言は俺の理解の範疇を超えていて、どう処理すればいいのか判断がつかない。
「君は僕にチョコレートをくれて、僕は君からのチョコレートを受け取った。だから両想いだろう?」
「……へ?」
気の抜けた声が出た。これはどこからどう突っ込めばいいのだ。
「バレンタインってそういうものじゃないか」
「いや……、いや! 待て、どうしたらそういう理解になるんだ、おかしい、間違っているぞスザク! 確かに世間一般的な女子は告白のつもりで男子にチョコレートを渡しているのかもしれないが、俺とお前は男同士で友達で、大体、チョコレートが欲しいと言い出したのはお前であって、俺が自分の意志で渡したわけではない! ……違うな、訂正する、渡したのは確かに俺の意志だったが、それはお前があまりにもチョコレートを欲しがっていたからであって、最初からお前に渡そうと思って渡したわけではない!」
動揺していて内容が支離滅裂だ。何を言っているのか自分でもわからなかった。
すると、スザクが不思議そうに首を傾げた。
「第一、お前には好きな人が」
「ルルーシュのこと?」
「そうじゃなくて、お前、告白してきた女子に言っていたじゃないか。好きな人がいるって」
「だからそれはルルーシュのことだよ」
「嘘だ」
「なんで嘘つかなきゃいけないの。僕、十歳のときのあれはルルーシュからの告白だと思っていたんだけど」
「なぜそんな勘違いをする」
「だからチョコレートを」
「いや、もういい、お前の認識は到底納得できないが理解はした」
スザクがどこかで誤った知識を得て、それを高校生になった現在まで持ち続けていたという衝撃の事実はこの際どうでもいい。
問題は、お互いのすれ違いが発覚した上でどう対処するかだ。
スザクは俺がスザクのことを好きだと誤解し、自分達は両想いだと思い込んでいて、俺は実際にスザクのことが好きなのだ。これは大問題である。
(……ん?)
何が問題なのだろうと冷静になった。
今の理論は整合性が取れている。どこにも問題はない。
あるとすれば、降って湧いたような恋人関係に俺がどう対処すればいいのかわからないだけだ。
「ルルーシュ?」
スザクが不安そうに俺を窺っている。その様子は捨てられた子犬みたいだった。
「お前、俺達が両想いだと勘違いしていたんだよな」
「勘違いじゃないけど」
「だからそれはお前の思い込みだ。俺は両想いだなんて一度も思ったことはない。お前はただの友達で、俺達はこの先もずっと友達同士のつもりでいた」
「じゃあやっぱり僕とは……」
「でも――、お前みたいに勘違いはしていなかったけれど、それとは別に、恋愛感情を抱いていた」
「え?」
スザクの顔をまともに見ていられなくて、ふいっと目線を逸らした。
「ただの友達を、しかも同じ男を好きになった自分は間違っているのだと、ずっとそう思ってきた。毎年増えていくお前へのチョコレートを見て、なんの意味もない自分のチョコレートが惨めになった。だからもう諦めようと決めたし、チョコレートももう渡さないと自分の中でケジメをつけたんだ。だが、――俺は、お前を好きなままでいてもいいんだろうか」
最後のほうは自信のない声になってしまった。
スザクはああ言っていたけれど、バレンタインのチョコレートでとんでもない勘違いをしていた男である。両想いの意味も間違った方向で理解しているのではないかと、疑念が捨て切れない。
両想いとは親友よりもさらに仲のいい友達ぐらいの感覚でいたらどうしよう。スザクの返事が怖い。
じっと息をひそめていると、不意に影が近付いた。
「僕のこと、好きでいてよ」
スザクに抱き締められ、甘ったるい声で囁かれて心臓が震える。
俺の想いを許されたのだと知った途端、歓喜が溢れそうになった。
「僕もずっとルルーシュのことを好きでいるから」
「スザク……」
顔を向ければスザクは笑っていた。俺がチョコレートをやると伝えたときに見せてくれたのと同じ笑顔だ。
「ねえ、僕のこと好きって言って」
「……両想いのつもりだったんじゃないのか」
「そうだけど、ちゃんと聞きたいんだよ」
「それでよく両想いだと思い込めたものだ。何かおかしいと一度も感じなかったのか」
「いつまで経ってもルルーシュが好きって言ってくれないからおかしいなとは思っていたよ」
「よく七年も勘違いできたな。ある意味感心する」
「だって、君と一緒にいられるんだと思ったらそれだけで幸せだったから。でも、僕も君に好きだって伝えていなかったから良くなかったんだね」
抱き締める腕に力がこもり、スザクの髪が頬をくすぐった。
「僕はルルーシュが好きだよ」
真っ直ぐに伝えられる。なんの衒いもないシンプルな一言は、俺がずっと欲しかった言葉だ。
ルルーシュは? と問われて息を吸い込む。
「俺も――、スザクのことが好きだ」
スザクが嬉しそうに「うん」と頷いた。
「今年もチョコレートくれる?」
「今年も来年も、お前が欲しがってくれるのならずっと作ってやる」
「じゃあ、ついでにもうひとつおねだりしていい?」
「なんだ」
「キス、してもいいかな」
両想いのつもりだったのに、キスすらしていない自分達をスザクはどう思っていたのか。
まさかずっと我慢していたのだろうか。そう考えたらくすぐったいような気持ちになった。
「好きなだけすればいい」
俺の答えを聞いたスザクが顔を輝かせた。満面の笑みを浮かべている。
正直な奴だなと笑った俺は、瞼を下ろして初めてのキスを待った。
(20.02.14)