※スザクと、スザクが拾ってきた黒猫と、会社の同僚で恋人になったルルーシュの新年。
Twitterでちまちま呟いていたネタの小話です。スザクとルルーシュは会社の同僚で、あるときスザクが黒猫(ルルーシュと命名)を拾い、その猫をきっかけに二人がお付き合いを始めて同棲に至る、という設定です。これだけで読める内容になっています。
詳細はまとめているので、ご興味がありましたらご覧ください。
「僕と黒猫のハートフル共同生活」(告白まで編)
「僕と黒猫と彼のハートフル共同生活」(同棲編)
コートのボタンをすべて留めると、スザクは部屋の奥に向かって声をかけた。
「ルルーシュ、準備できた?」
足元でじゃれ付いてくる黒猫をひょいと抱き上げ、ちょっと行ってくるねーと頬擦りした。返事をするように猫がにゃーんと鳴く。
「ああ、待たせたな。ってお前、マフラー巻いてないじゃないか」
「今夜はあったかいから大丈夫だよ」
「いくら暖かくても並んでいる間に冷えるぞ」
踵を返したルルーシュがすぐに戻ってきた。ほら、とマフラーが首に巻かれる。
「お参りに行って風邪を引いたらシャレにならないだろう」
「うん」
「新年早々、寝込んでも知らないからな」
「うん」
「なんだそのにやけ顔は」
緩む口元を隠さずにいると、至近距離でルルーシュが嫌そうな顔をした。ぐるぐると首を回って正面で結ばれたマフラーをぽんぽんと触り、スザクは笑みを深めた。
「一緒に暮らしてるんだなぁと思って」
「何を今さら」
「風邪を引かないかいちいち心配されるのって嬉しいよね」
「馬鹿なことを言ってないで早く行くぞ。しばらく留守番を頼むな」
黒猫に話しかけるルルーシュに温かい気持ちが広がった。
じゃあ行ってくるねルルーシュ、とスザクも手を振って家を出る。ルルーシュと同じ名前を付けた黒猫は、玄関先にちょこんと座って小さく鳴いた。
午前零時を過ぎたばかりの外は真っ暗で、吐く息は白くならないけどやはり寒かった。ルルーシュの言うとおりだとマフラーの中に顔を埋める。
新しい年を迎えてすでに十五分。こんな時間なのにかなりの人が出歩いているのは、皆、同じ場所を目指しているからだろう。
「朝になってから行けばいいのにね」
「俺たちもな」
「だって朝になるとさらに人が増えるじゃん。そしたら――」
ルルーシュの右手を取って見せびらかすように持ち上げ、こんなこと堂々とできないでしょ? と笑みを向ける。途端に、勢いよく振り払われた。
「ばっ、馬鹿か! 場所をわきまえろ!」
喚くルルーシュの頬はほんのり赤くなっていた。あーあ残念、と左手をひらひらさせたスザクは、その手を引っ込めずに逆に伸ばした。
「駄目だって。怒っても可愛いだけだよ」
薄く染まった頬を指の背で撫でた。これって猫の顎の下を撫でるときと同じ仕草だなと思い、ルルーシュって猫っぽいもんなぁとこっそり笑う。
すると、ルルーシュがぴたりと立ち止まってしまった。ん? と首を傾げてスザクも足を止めた。
「……怒る気力もなくなった」
「え、怒らないの?」
「俺の半径一メートル以内に近付くな」
「えー、無理だよそんなの」
「うるっさい!」
肩を怒らせて歩いて行くルルーシュの後ろ姿に、また頬が緩む。ルルーシュ待ってよーと言いながら追いかけるけれど、結局、神社の前に着くまで一度も止まってくれなかった。
新年早々怒らせちゃったなとさすがに少し反省すれば、まるでそのタイミングを図っていたかのようにルルーシュが振り返った。
「スザクのくせに遅いぞ。さっさと来い」
「いいの?」
「神様の前で怒っても仕方ないからな」
ふいと逸らした横顔は拗ねたような表情をしていた。でも、それは彼の照れ隠しだとわかっているから、スザクはルルーシュのもとに駆け寄ると隣に並んだ。
一緒に鳥居をくぐり、参道を歩く。両脇には出店が出ていて、良い匂いが漂ってきた。
「たこ焼き食べたいねぇ。あ、焼きイカでもいいかな」
「お前は食べ物のことばかりか」
「だってお腹空いた」
「あんなに年越し蕎麦を食べたのに」
だって食べたの四時間前だよと唇を尖らせる。
「ねっ、たこ焼きだけ。駄目?」
「食べるのはお前だから勝手にしろ」
「ルルーシュも一個ぐらい食べようよ」
「食べない」
「つまんない」
「お前なぁ……」
呆れたような溜め息をついたルルーシュは、しかしすぐに小さく笑った。一個だけだぞ、との返答にスザクも満面の笑みを返した。
人波にのまれないようルルーシュのコートの袖を掴んで進む。はぐれないためだと納得しているのか、今度は怒られることはなかった。
ようやくお参りを済ませると参道を戻る。お待ちかねのたこ焼きを買って焚き火のあるほうに移動すると、ほかの参拝客に混じって立ち食いをした。
「甘酒ももらえるみたい」
「じゃあもらってこようか」
「いいよいいよ、僕が行ってくるから。ルルーシュはたこ焼き食べてて」
まだ温かいたこ焼きの容器を渡すと、スザクは甘酒を配っている場所まで駆けた。二人分をもらってすぐに戻り、たこ焼きと交換で甘酒を渡す。
「俺が行くって言ったのに」
「だって、あまりルルーシュを動かすのは悪いから」
「そこに行くだけだぞ。たいした距離じゃないだろ」
「あー、うん、そうじゃなくて……」
言葉を濁したスザクに、ルルーシュがきょとんとした顔をする。あったかいうちに飲んで、たこ焼きも食べて、と話を逸らすとスザクも甘酒に口をつけた。
(まだ腰がつらそうだからあまり歩かせたくないって言ったらルルーシュ絶対怒るし)
そんなことを口にしたら本気で怒られるだろう。さすがにそのくらいの空気は読める。
もともと会社の同僚で、友達だったルルーシュとお付き合いを始めてから約二十日。彼を大事に想うあまり、初めはキスすら躊躇ってできなかったのだが、そんなスザクの遠慮が誤解を招いてルルーシュをひどく傷付けてしまったことは昨年で一番の後悔だ。
でも、仲直りしたあとは自分でもときどき照れるくらい甘ったるい空気が流れている。会社ではただの同僚だけど、ふとしたときに交わす視線には今までになかった甘さがあり、気を引き締めていないとすぐに顔がにやけそうになるので大変だ。
そうして二日前。十二月三十日の夜、時間的にはほとんど三十一日の大晦日にルルーシュと初めて体を繋げた。
まさかルルーシュのほうから誘ってくれるとは思っていなかったので、最初は頭が真っ白になった。すぐに我に返ってその意思を確認したものの、自分でもかなり混乱していると自覚していた。
だって、ずっと好きだった人に触れるのだ。緊張はするし、嬉しさでどうにかなりそうだし、平常心なんてとても保てるわけがなかった。
それでも、ルルーシュを少しも傷付けることがないよう大事に触った。気持ちが昂ぶりすぎて最中に泣いてしまったのは思い出すたびに恥ずかしくなるけれど、とにかく幸せだった。
幸せな気持ちのまま年越しとなり、そうして迎えた新年だ。生きてきた中で一番最高な年の始まりである。今年はきっと去年以上に良い一年になるなぁと、スザクはこっそり口元を緩めた。
隣をちらりと窺えば、ルルーシュは火に当たりながら甘酒を飲んでいた。炎に照らされる横顔は精巧な人形のようで、毎日見ているのにたまに驚いてしまうくらい綺麗だ。
その顔がスザクのほうを向いた。紫の瞳が自分だけを見て、薄い唇が自分のためだけに開かれる瞬間は奇跡みたいだと、大袈裟でもなく本気で思った。
「寒いからそろそろ帰るか」
「うん」
空になったゴミを捨てると帰路に着く。神社は大賑わいだったけれど、住宅街のほうはさすがに人が少ない。大通りから角を曲がると、道を歩いているのは二人だけになった。
「新年を迎えてすぐに神社に行ったのは初めてだな」
「ブリタニアだと初詣の習慣がないもんね。いつもはどうやって過ごしてるの? やっぱりカウントダウン?」
「お祭り好きというか、パーティーで騒ぐのが好きな異母兄がいて、大騒ぎしながら新年を迎えるのが恒例だな。皆、今ごろ床やソファで潰れているんじゃないか? 母さんあたりは酒に強いから、飲めるメンバーは朝まで酒盛りだ。正直、俺は毎回げんなりしていたから、こうして静かに年を越せたのは嬉しいな」
げんなりしていたと言う割りに、ルルーシュの表情は柔らかい。文句を言いつつも、家族のことは好きなのだろう。
今年はスザクと猫のルルーシュのために残ってくれたけれど、やっぱり実家に帰りたかったのではないか。そう思ったら悪いような気がした。
「でも、静か過ぎて逆に寂しくない?」
思わず声にして、僕は馬鹿だなとすぐに後悔した。
もしも「そうだな、寂しいな」なんて返答があったらどうするのだ。幸せな気持ちで迎えた新年なのに、あっという間に落ち込んでしまうに決まっている。
今の質問はなしにしようと言えるはずもなく、スザクは緊張しながらルルーシュの言葉を待った。不思議なことを聞かれたというように小首を傾げたルルーシュは、寂しくなんかないぞと答えた。
「だって、お前と俺がいるじゃないか。充分賑やかだ」
ルルーシュの言う「俺」とは黒猫のルルーシュのことだ。同じ名前だから紛らわしいとルルーシュは言うけれど、名前を呼ぶのが恥ずかしいからという理由で猫のことを俺と呼ぶのもだいぶ紛らわしい。
もっとも、その呼び方もすっかり慣れてしまったので、猫のことを呼んでいるのか人間のことを呼んでいるのかは会話の中で自然と理解していた。こういうのも一緒に暮らしているからこそだと思えばくすぐったいものを感じる。
「僕たちだけで平気?」
「何を今さら。まさか俺が寂しがっていないか心配していたのか?」
「心配じゃないけど、ルルーシュのところは大家族っぽいから、大勢のほうが楽しいんじゃない?」
「うちはイベントのときに集まるだけで、普段はお前といるときより静かだよ」
「本当?」
「本当だって」
くすくすと笑ったルルーシュは、ふと笑みを消すと辺りを見回し、それから何かを決心するような顔をした。どうしたのだろうと思っていたら、右手が伸びてスザクの左手を握る。
え? と驚いた声を出せば、「今日だけだ」とルルーシュが不機嫌そうに前を向いた。でも、スザクは知っていた。これもルルーシュの照れ隠しだと。
「ありがとう」
「ほら、早く帰るぞ」
歩き出そうとしたルルーシュに、ちょっと待ってとお願いする。どうした? と振り返った彼の指に指を絡めた。
その手を強く握り締め、冷たい唇に自分の唇を重ねる。目を瞠ったルルーシュは、しかし嫌がる素振りを見せることなく瞼を下ろしてくれた。
ほんの少し深く合わせ、濡れた唇を舌の先で舐めてから顔を離す。
「甘いね」
「――甘酒のせいだろ」
「僕はソースの味だった?」
「馬鹿」
目を合わせて一緒に笑う。繋いだ手に力を込め、あけましておめでとうと伝えた。
「今年もよろしくね」
「こちらこそ」
「ルルーシュが待ってるから帰ろっか」
「ああ」
もう一度、今度は軽く触れるだけのキスをしてから歩き出す。
とても甘くて、溢れんばかりの幸せに満ちた一年の始まりの日だった。
~おまけ~
「たっだいまー!」
スザクがドアを開けたのと同時に、出かけるときと同じ姿勢で玄関に座っていた黒猫が飛び付いてきた。甘えるように鳴く愛猫をスザクはでれでれしながら抱き締めた。
「寒かったねー、ごめんねー、今日はお土産ないんだぁ」
「おい、寒いから早く入れ」
後ろで待っているルルーシュが不機嫌そうに言うので、靴を脱いで部屋に上がる。
「ほら、ルルーシュも帰ってきたよ。おかえりーって言ってあげて」
にゃーんと鳴き声が上がる。スザクには厳しいルルーシュも、嬉しそうに微笑んで「ただいま」と言った。顎をよしよしと撫でれば、黒猫のルルーシュが気持ち良さそうに喉を鳴らす。
「やっぱり……」
「やっぱり? 何がだ?」
「ううん、なんでもない」
やっぱりルルーシュって猫っぽいよねなんてことは本人に言えないなと思いながら奥へ行き、ヒーターのスイッチをつけた。途端に黒猫が暴れ、スザクの腕の中から逃げ出した。どうするのかと見ていたら、ヒーターの前に陣取ってご満悦といった様子だ。
「僕よりヒーターを取るなんて……」
「猫なんてそんなもんだろ」
「ルルーシュは違うよ!」
「いや、どう見てもヒーターだろ」
「まさかルルーシュも僕よりヒーターを取るの?」
「なんで俺がヒーターを選ばないといけないんだ」
「じゃあ僕を取ってくれるの? やったぁ!」
「はいはい。そんなことより先に歯を磨いてこい。俺はもう寝たいんだ」
新年でも冷たい対応のルルーシュだけど、いつものことなので気にしない。わかっていてスザクは遊んでいるし、スザクが遊んでいることをルルーシュもわかっている。
こういうのも阿吽の呼吸っていうのかなと思ってスザクは嬉しくなった。
もう寝たいと言いつつ、ちょっとだけ夜更かししようよというスザクの希望に、ルルーシュは「まったく」と言いつつ付き合ってくれた。なんだかんだ言って甘やかしてくれるのがルルーシュだった。
簡単な酒のつまみをルルーシュが作ってくれている間、スザクは日本酒を開けた。今年は帰らないと連絡したら、お正月なんだからと母親が送ってくれたのである。
「日本酒、大丈夫?」
「ちょっとだけなら」
「ルルーシュと日本酒って似合わないようで意外と似合うよね」
「どっちなんだそれは」
二人でコタツに入っていると、黒猫のルルーシュがとことこやってきた。にゃーにゃー鳴いて中に入れろと言ってくるので、コタツの掛布団をひょいと上げればするりと体を潜り込ませた。
他愛ない話をしながら舐めるように日本酒を飲む。夜の部屋は静かで時折沈黙が続くけれど、居心地は悪くない。むしろ心地よかった。
「こうしているとさぁ」
「ん?」
「なんかさぁ」
「お前、酔ってるだろ」
「酔ってないよ。しらふしらふ」
「まあ明日も休みだからいいけど。で、何がどうした」
「そうそう、だからね、こうしていると僕たち家族みたいだなって」
お猪口を持ったままルルーシュが止まった。どうしたの? と首を傾げれば、今さらかと呆れた声が返ってきた。
「俺は最初からそのつもりだったが」
「へ?」
「だって一緒に暮らしてるじゃないか」
「えっ」
酔いが一気に醒めた。もしかしてルルーシュも酔っているのだろうかとその顔を見たけれど、顔色は普段と変わらない。すぐに言葉が出なくて口をぱくぱくさせていると、ルルーシュが優しく笑った。
「もう寝るか」
「え、ちょっ、ま、待って」
立ち上がったルルーシュの腕を掴むと、笑みのままの彼が膝をつき、それからふいに顔を近付けた。
「――酒くさい」
可笑しそうに笑い、触れた唇のぬくもりを残して今度こそルルーシュは行ってしまった。
洗面所へと消えたルルーシュの姿を茫然と目で追ったスザクは、両手で顔を覆うと「うわぁ」と声を漏らして後ろに倒れた。
「ほんっとルルーシュ、反則すぎ」
そのタイミングを見計らっていたかのように、コタツの中から黒猫がよじよじと出てきた。顎を撫でると、スザクの手に頭を擦り付けるような仕草をする。
「ルルーシュって最高だよね、ルルーシュ」
黒猫が不思議そうに鳴く。それに微笑み、よいしょと起き上がった。
「僕も寝る準備しよ」
黒猫のルルーシュをベッドに運ぶと、ちょっと待っててねと小さな頭を触った。柔らかい毛の感触にまた頬が緩んだ。
最高に幸せな一年の始まりに、今年はとても良い年になりそうな予感がした。
(17.01.07)